プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“飛ばない統一球”驚きの都市伝説。
今季プロ野球は投高打低にならない!?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/03/30 10:31
栗原健太は昨シーズン序盤こそ統一球に苦しめられたが、8~9月と2カ月連続で月間MVPを受賞。最終的には打率.293、17本塁打、87打点の成績を残した。
計算上、打球の飛距離は2m落ちるだけだったが……。
もちろんこの4cmというのは、机上の計算である。すべてがすべてこんなに大きな違いが出ているわけではないだろう。
ただ、反発係数の計算上(これも机上の計算だが)では、統一球は今までのボールに比して2m弱、飛距離が落ちると言われていた。しかし、実際の試合を見ると、その差は明らかに2mを越える、大きな壁のように映っていた。
これほどまでに本塁打が激減し、ほとんどの打者が苦しんだ。その現実を説明する理由の一つとして、溝田教授の指摘したこの4cmの話は、非常に説得力のあるものだったと感じるわけだ。
そして、この4cmの話を読んで妙に合点がいったのが、「シーズン後半になってボールが変わったのでは……」という例のコーチの話でもあった。
なぜ中村剛也は、シーズン序盤に球筋を見極められたのか?
投手の指から同じ軌道で放たれたボールに対して、これまでと同じ感覚でバットを振っていれば、この4cmの誤差で打ちとられる。ただ、打者は機械ではなく、そうした経験を重ねることで、無意識にでも徐々にスイングを修正していくものでもあるのだ。
統一球を苦にもしなかった西武の中村剛也内野手は、本塁打量産の秘密を「右手の押し込みにある」と語っている。
それは即ち、ボールを呼び込み、軌道を最後まで見て正確にコンタクトして、右手で押し込んでいくということなのだ。こうして4cmの差を見極められているからこそ、統一球は苦にもならなかったというわけだ。
この中村とは違って、当初は統一球に戸惑った打者たちも、経験を積み、試行錯誤を繰り返していくうちに、少しずつ新しい軌道をつかんでいっている。
それがいわゆる「慣れる」ということなのである。