詳説日本野球研究BACK NUMBER
東北、北関東勢の大躍進があるかも!?
第84回センバツの有力校を全検証。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/03/20 08:02
春のセンバツの前哨戦となる昨秋の明治神宮大会は光星学院(青森)が制した。強豪が揃った東北勢が、被災地に明るい話題を届けることができるか。
愛工大名電のエース濱田は“BIG2”に比肩する実力派。
愛工大名電は、明治神宮大会1回戦の関東一戦が2対1の辛勝、準々決勝の浦和学院戦が関東大会の覇者を寄せ付けない8対1の完勝、準決勝の北照(北海道)戦が機動力で相手ディフェンス陣を翻弄する6対2の完勝と、戦い方にバリエーションがあるのがいい。
北照戦では打者走者の「一塁到達タイム4.3秒未満、三塁打のときの三塁到達タイム12秒未満」が8人・11回という屈指の走塁を見せ、二盗を阻止する側の捕手・中村雄太朗の二塁送球は1.8~1.9秒台という強肩ぶりでスキがまるでない。
さらに同校を際立たせているのがエース左腕の濱田達郎の存在だ。私は今センバツの注目投手について、花巻東・大谷と大阪桐蔭・藤浪の“BIG2”が中心になると様々な媒体で述べてきた。しかし、実績を見れば濱田を加えて“BIG3”としなければいけないのではないか、といつも迷っている。ストレートは毎試合のように145km前後を計測し、スライダー、チェンジアップのキレもいい。それでもBIG3と書かないのは、大谷や藤浪に張り合っていこうという欲が濱田に見えないからだ。
左腕投手を擁するチームが勝つ!? センバツのジンクス。
ただそれはプロを睨んだときの不満で、試合に勝つという面だけを見ればスタミナ、緩急の冴えなど、BIG2を上回っている面は少なくない。さらにセンバツは近年、左腕投手のいるチームが勝ち残るというジンクス(伝統)がある。
'06年 横浜(優勝)=川角謙、西嶋一記、浦川綾人、清峰(準優勝)=有迫亮
'07年 常葉菊川(優勝)=戸狩聡希
'09年 花巻東(準優勝)=菊池雄星
'10年 興南(優勝)=島袋洋奨、日大三(準優勝)=山崎福也
過去6年間、ここに紹介した決勝進出校の主戦投手のほとんどが左腕だったところに「ジンクス」の一言で済まされない真実味がある。今大会を代表する左腕、濱田を擁する愛工大名電を推す理由の1つである。
Dブロックの有力校・智弁学園にリベンジを期す横浜。
最後のDブロックで有力なのは智弁学園(奈良)である。投手陣は青山大紀、小野耀平に力があり、打線もこの2人に小池将大を加えたクリーンアップでチーム全体の6割を占める12本塁打を放つなど、破壊力は抜群。
昨年夏の選手権では3回戦で強豪、横浜を相手に9回表に8点を挙げる大逆転劇を見せるなど印象に残る熱戦を繰り広げ、新チームになった秋はライバル天理を奈良大会、近畿大会で撃破するなど充実の時を迎えている。
この智弁学園に対し、昨年夏に一敗地にまみれた横浜が準々決勝で再戦する可能性がある。投打のバランスや個人技では智弁学園が上回るが、横浜には形に現れない“伝統”という武器がある。横浜がリベンジを果たすためにはまず高知(高知)、そして聖光学院(福島)―鳥羽(京都)の勝者という高いハードルを越えなければならないが、前評判が高くないときの伝統校ほど不気味な存在はない。
下級生のときから試合に出ている選手が多く経験値は高い。また、柳裕也という安定感のあるエースがしっかりしているのも横浜の特徴だ。勢いに乗れば一気に勝ち上がる力はある。