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継投型と完投型のどっちが有利?
履正社がとった奇抜な甲子園戦法。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/03/29 19:55
3回表に愛工大名電に4点を許し、阪本大樹(右)にマウンドを譲る履正社先発の東野龍二。
思い切った継投である。
履正社(大阪)は1回戦の地球環境(長野)戦。3人の投手を3イニングずつ登板させるという奇抜な継投策をとり、見事に勝利を挙げた。
「ピッチングコーチと相談して、大会前から登板の順番も決めていました」と履正社・岡田龍生監督は明かす。3人の投手を3イニング限定で登板させることにより、相手を幻惑させる。絶対的な実力を持つエースがいないチームでも、この戦い方なら勝てるのではないか……。
履正社の戦い方は鮮烈だった。
3月29日の2回戦、優勝候補筆頭の愛工大名電(愛知)を前にしても、岡田監督に迷いはなかった。
試合前、継投策について、こう話していた。
「試合展開で継投のタイミングが変わることがあるかもしれませんけど、試合がこちらの思う通りに運べば、3イニングずつでと考えています」
登板した投手が打たれた場合には早期の交代もあるが、「基本は3イニング」。岡田監督の腹は決まっていた。
ドラフト候補のエースに、4人の投手で立ち向かっていった履正社。
一方の愛工大名電は地区大会からほとんどの試合を、ドラフト候補左腕・濱田達郎一人で乗り切ってきたチームだ。
1回戦の宮崎西(宮崎)戦は8-0という大差がついたが、それでも、濱田は最後まで一人で投げた。無四球だったこと、完封だったこと、あるいは、濱田の球数が100球にも満たなかったことなど理由は様々あげられるが、控え投手に託すことなく、濱田で戦いきるのが愛工大名電のやり方だった。
濱田は「今大会は、全試合一人で投げるつもり」と語っていた。
いわば、2回戦屈指の好カード、履正社と愛工大名電の対決は、投手起用に関する限り、好対照のチームといえたのだ。
結果は、9-2で愛工大名電の圧勝――。
履正社がつぎ込んだ4人の投手を、愛工大名電が次々に粉砕していった。
先発した履正社の東野龍二が3回に4失点すると、この回途中で降板。2番手の阪本大樹は3回1/3を1失点。東範幸は7回から登板し、8回に1失点、9回に3点を失い降板した。東の後を継いだ鈴木佳佑は無失点だったものの、勝利の方程式の4人で計9失点。
「(愛工大名電は)打力はあるし、バントなど何をやってくるか分からないし、すごい打線だった」
と東野は唇を噛み、阪本、エースナンバーの東は、愛工大名電打線に白旗を上げた。
岡田監督はいう。
「1回戦と2回戦とでは全然、違いました。投手がこのレベルでは、強豪校を相手に乗り切っていけない。継投は目先を変えるという効果がありますけど、今日は全くできませんでした」