日本代表、2014年ブラジルへBACK NUMBER
元日本代表の波戸康広氏が分析する、
“ブレイク予備軍”酒井宏樹の課題。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/02/09 10:31
FIFAの公式サイトで「今年注目の若手選手13人」にも挙げられている酒井宏樹。サイトではバルセロナのダニ・アウベスと比較されているが……クラブW杯に続く、ロンドン五輪での世界的プレーが期待される
求められる仲間への指示とチャンスメークへの意欲。
ただ、波戸氏が守備で気になった点は、後半29分のプレー。酒井が右サイドで相手との間合いを詰めてボールを奪いに行ったものの、取りきれずに裏を突かれそうになった場面。幸いにもタッチラインを割ってピンチにはならなかった。
「このプレーに象徴されますけど、今は自信があるのか一発でボールを取りに行こうとしているのが目につく。行くか行かないかサジ加減は難しいところ。でも、相手と体が入れ替わった場合はビッグチャンスを与えてしまうことになるのだから、少し慎重ぐらいのほうがいいと個人的には思う。チーム戦術のこともあるのでどうこう言えないが、自分で裏をケアしているわけだから、味方の前の選手をコーチングで動かすことも大事。味方を動かしてボールを取ってしまえば、逆にパスをもらって前を向けるので自分のパス能力、構成力を活かすこともできる。そういうことを意識してプレーすると、もっと自分主導でチャンスをつくれるはずです」
攻撃の見せ場が乏しかったのは、守備意識が強かったというばかりではない。酒井自身、パスミスが多かったのは事実だし、波戸氏が指摘するように周囲を動かして自分からチャンスメークしようという動きが少なかった。
スピーディーな展開で生きる“高速アーリークロス”。
引退までの2年間、古巣・横浜F・マリノスに戻ってプレーした波戸氏は実際、酒井とピッチで肌を合わせたことで彼の余りある攻撃センスを実感したという。
昨年6月11日の柏レイソル戦で波戸氏は左サイドバックに入って対面で戦った。酒井が“高速アーリークロス”で北嶋秀朗のゴールをアシストしたシーンは、今でも波戸の印象に強く残っている。
「こっちの陣地に入ってきてまだ浅い位置だったし、対面にいた自分は先にコースを切ろうとした。そうしたら(クロスを)蹴ってきた。あそこから上げてくる確率は低いと思ったし、しかも速いボールをピンポイントで合わせてきましたからね。正直、驚きました。
日本のサイドバックというのはドリブルで仕掛けた後にクロスとか、そういうタイプが多い。しかし酒井の場合は、抜かなくても自分の間合いに持ちこんで蹴ってくる。それもフォワードとか中の動きに合わせようとしない。“俺のタイミングに中が合わせてくれ”という発想なんです。彼の場合、中を見ないでクロスを上げてくることもあるので、守っているほうとしたらやりづらい。狙いがニアなのかファーなのかすら読めないですから。どんどんスピーディーになっている現代サッカーでは、速くて正確なボールを判断早く出せる酒井のようなタイプが重宝されるようになると思います」