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西武黄金期の「常勝マインド」の系譜。
秋山から小久保へ引き継がれたもの。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/11/22 12:00
シリーズMVPに輝きお立ち台に上がった小久保裕紀は、「なんでオレが、と思っている人も多いでしょう。日本一になれたのはみんなの力。ボクが代表して(賞を)いただいただけなので、みんなにお返ししたいと思います」と語ってヤフードーム満場の笑いをさらった
3勝3敗で迎えた第7戦に勝利し、互いにホームゲームで勝てないという史上初の“外弁慶シリーズ”に待ったをかけ日本一に輝いたソフトバンクだが、中日に辛酸を嘗めさせられたのも事実だった。
12球団トップのチーム打率2割6分7厘、同2位の550得点と抜群の破壊力を持ちながら、このシリーズでは7試合でわずか17得点、打率も2割3分4厘と沈黙。得点圏に至っては1割8分3厘と、中日投手陣にしっかりと抑えられた形となった。
そのソフトバンクが日本一になれた理由を挙げるとすれば強固な投手陣があったから。それは間違いない。だが、相手より1点でも多く得点できなければ、その投手陣も宝の持ち腐れとなってしまう。つまり、ソフトバンクが勝てた最大の要因は、数少ないチャンスを中日よりも多くものにできたからだった。
その象徴が、4番の差だった。
連敗で迎えた第3戦。秋山監督は小久保を4番に据える。
中日のブランコは、シリーズを通じての出塁率が3割7分9厘と、4番打者として最低限の役割を果たした。しかし、打点はゼロ。得点に絡んだ打席も第6戦の初回に選んだ四球のみと、チームを勝利に導く働きを見せることはできなかった。
かたやソフトバンクは、連敗して迎えた第3戦から、それまで打率1割2分5厘と不振に喘いでいた松田宣浩を5番に下げ、小久保裕紀を4番に上げた。秋山幸二監督からすれば、「負けたら敗戦の全責任を負う」と言ったように苦渋の決断ではあったものの、これがチームにとって吉と出た。
小久保は、第3戦から2試合連続で2安打を記録するなど、4番に座ってから18打数6安打、通算でも25打数8安打と指揮官の期待に応える打撃を披露。シリーズMVPにも輝いた。
何より効果的だったのが、彼が重要なゲームで得点に絡むプレーを見せたことだ。
負ければ中日に王手を許してしまう第4戦の初回に先制打。さらにその直後、松田のセカンドゴロがダブルプレーになると予測した小久保は、併殺崩しの激しいスライディングを敢行し、ショート・荒木雅博の悪送球を誘い2点目をアシストする。2対1のトータルスコアから判断しても、この1点の持つ意味はあまりにも大きかった。
4番に座って以来、チーム総得点15のうちの5点を演出した小久保。
第5戦では打撃と目、そして足で魅せた。
初回にタイムリーを放つと、2対0で迎えた8回の無死一、二塁のチャンスでは、フルカウントから内角の速球を冷静に見極めて四球を選び、続く松田の押し出し死球を誘発。そして、多村仁志のレフト前タイムリーでダメ押しとなる5点目のホームを踏んだ。3連勝で逆王手を決めたこのゲームで、小久保は3点に絡む活躍を見せた。
4番に座った第3戦以降、小久保はチーム総得点15のうち、3分の1にあたる5点を演出した。打線の柱の働きが、ソフトバンクに流れを引き寄せたのだ。
さらに付け加えれば、この結果を導いたのは、彼に強靭なメンタリティが備わっていたからでもあった。