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世界体操、独走の個人総合3連覇。
団体で見えた内村航平の強靭な心。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byHiroyuki Nakamura
posted2011/10/24 10:30
内村(左)が達成した男子個人総合3連覇は史上初の快挙。ロンドン五輪、2013年世界選手権での新技「ウチムラ」の成功を目標にさらに技を磨く
ライバルは自分自身──傑出した実力者ゆえの克己心。
その強固なメンタルを形作っているのは何か。
今年7月のジャパンカップで、内村はこう語っている。
「やっている以上、満足することはないと思います」
その言葉にうかがえるのは、自分の理想とする演技を追い求める姿勢である。
水泳や陸上のように、自分の記録をいかに伸ばすかが大切な競技でも、ライバル選手を気にかけることはある。ときに、自身のベストパフォーマンスを出すことよりも、勝とうという意識のほうが強まることもある。そこからプレッシャーが大きくなる。人を気にするあまり、本来の自分を見失うことだってある。
だが内村は今、ライバルと言える選手もいないほど突出した位置にいる。意識すべき特定の選手はいないといってよい状況にあるから、自分で作り上げる、目指すべき演技の基準と照らし合わせて取り組むことになる。
言いかえれば、ライバルがどうこうとは無縁のところで、自分の描く理想へ向けて練習し、大会で演技をする。そこに、周囲に左右されない、プレッシャーに強い理由の一端があるのではないか。それはまた、競うべき相手がなくとも自らを磨き上げる精神力の強さを示してもいる。
団体の鉄棒で落下した理由はライバル中国が影響!?
個人総合決勝で見事な演技を見せた内村は、団体決勝の最後の種目、鉄棒では落下の失敗をしている。演技の前に時間が空いてしまったことで集中を欠いた感があったのと併せ、失敗の理由を内村はこう語っている。
「結果を気にしすぎてしまったかなと思います」
個人総合と違い、団体は中国という明確なライバルがいて、相手を見ながらの演技にならざるを得ない。そこで失敗したということも、内村のメンタルのありようを、示しているように思える。