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プロと大学、どちらを勧めるべきか?
ドラフト直前、進路指導に悩む監督達。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/10/19 11:55
早大スポーツ科学部のトップアスリート入学試験でこの9月に合格を果たした日大三の吉永健太朗(写真右)と法大への進学を表明している畔上翔。今年の夏の甲子園優勝校・日大三からは誰もプロ入り表明をしなかった
大学生、社会人ならともかく、高校生に対し「おまえはプロへ行くべきだ」と迷いなく言える監督は、そういるものではない。
この夏、全国制覇を遂げた日大三高の監督、小倉全由はこう話していた。
「あの世界でやるのに、18歳ではやっぱり大変だと思いますよ。右も左もわからない。いいも悪いもわからない。だから、無難な道を勧めるというわけじゃないんですけど、大学行ってからでも遅くないんじゃないか、とは言いました」
日大三高の中で進路が注目されていたのは、エースの吉永健太朗と、クリーンナップを打っていた畔上翔、横尾俊建、高山俊の計4人だ。そして最終的には4人とも大学進学の道を選んだ。
小倉は続ける。
「私が高校生だったら、プロへ行けるものなら行っちゃうでしょうね。男なら勝負をかけるときがあってもいいと思う。ただ、教員の立場となると、どうしてもプロへ入ったときのデメリットを考えざるをえない。本人がどうしてもプロへ行きたいというのなら、最後は任せたんでしょうけど、監督の言葉はいちばん影響力ありますからね。そういう(大学に進学すべきだという)雰囲気をつくっちゃったのかなというのはあります」
もしプロで失敗したら……高卒からの第二の人生を危惧する恩師。
日大三高の小倉は、'01年夏に頂点に立ったときは、反対に4人の選手をプロ野球界に送り込んだ。だが、その中で今も現役を続けているのはエースだった近藤一樹(オリックス)だけだ。残りの3人の内2人は、一軍でプレーすることさえ叶わず引退した。
ただ、それは決して特別なことではない。将来性を見込まれプロ入りする高校生の場合、むしろ、一軍のスポットライトとは無縁のままプロの舞台を降りる選手の方が圧倒的多数なのだ。
だから、20歳をいくつか過ぎた時点で、野球のことしか知らぬまま、しかも高卒という最終学歴から第二の人生を出発することの苦労を考え、監督がプロ入りを思いとどまらせたくなる気持ちは十分理解できる。
あの楽天の田中将大でさえ、当時、駒大苫小牧の監督だった香田誉士史(現・鶴見大コーチ)は「まだ体が出来上がっていないから」と大学進学を勧めていたほどなのだ。しかし、最後は、田中自身の意志でプロ入りを決断した。