MLB東奔西走BACK NUMBER
メディアを通じた選手批判は御法度!?
MLBで名監督になるための条件とは。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/10/17 10:30
昨シーズン途中からダイヤモンドバックスの監督代行を務め、今シーズンからチームを指揮するカーク・ギブソン監督。選手との対話を何よりも大事にすることで、昨シーズン65勝97敗、勝率.401と低迷していたチームを見事に復活させた
選手との話し合いから生まれる、信頼関係と起用法。
その言葉通り、選手たちは間違いなくギブソン監督と共通の目的を共有していた。チーム内ではベテランの部類に属し、20本塁打、71打点を残した主砲クリス・ヤング。彼は地区シリーズで試合ごとに打順が5番、6番、7番と下げられていたのだが、こちらの質問に対してまったく気にする様子もなく笑顔で話してくれた。
「監督から説明なんてないよ。シーズン中もそうだったし、もう慣れた。先発表を見て7番に入っていても、正直どうでもよかった。とにかくこの時期にわがままなんてできないし、どの打順だって大事な場面で打順が回ってくるんだから」
普段から監督との間できちんとした意思疎通がないのであれば、きっとヤングはこの不躾な質問に対して違った反応をしていたはずだ。また、プレーオフという大事な時期に、チーム内で大きな亀裂を生じさせていた可能性さえある。
選手と常にコミュニケーションをとるという点では、マドン監督も同様だ。彼は常に監督室を選手たちに開放し、起用法を含めて采配に疑問を抱いた選手を常時迎え入れ、納得ゆくまで話し合いを行なってきた。レイズ在籍当時の岩村明憲選手も、何か疑問が生じれば監督室のドアを叩き、何度もマドン監督と1対1の話し合いをしていた。
またワールドシリーズ初出場を果たした2008年にはキャンプ初日に選手全員を集め、「9=8(選手9人が1つになればプレーオフの8チームに残れるという意味)」を掲げ、このキャッチフレーズの下、シーズンを通して選手たちの意思統一を図った。
そして時には、無気力プレーをした選手を即時交代させるという厳しい采配を施すなどして、才能ある選手たちを正しい方向に導いていた。今シーズンもその指導法があったからこそ若手選手が急成長を遂げ、主力選手の大量放出を覆しシーズン終盤の快進撃を生み出したのだ。
威厳ある監督と尊敬される監督は違う。
ただ両者の対話重視の采配は、成長途上の若手選手主体のチームだからこそ機能したものであって、すべてのチームに当てはまるものではない。
実際これまで名監督とされてきたジョー・トーリ氏やボビー・コックス氏などはヤンキースやブレーブスなど戦力が整ったチームを指揮し、選手からは近寄りがたい存在であったし、彼らも選手たちから一定の距離を置いて接していた。そしてクラブハウスはチームリーダーとなるベテラン選手の統率力に委ねられていたように思う。
だがその一方で、そうしたベテラン選手には最大限の敬意を表し、彼らの起用法には細心の注意を払っていた。だから選手の打順を変えたり、欠場させる時、もしくは登板間隔を開けたり、登板場所を変更する時は必ず選手に説明することを怠らなかった。ベテラン選手たちを尊重している分、それだけ彼らが働きやすい環境を用意しようとしたのだろう。