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イチローと松井秀喜、勝負の軍配は?
優勝を競う両チームは“守備”がカギ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2010/03/16 10:30
イチローと松井の初めての出会いは1990年の時。愛工大名電vs.星稜の練習試合で、高校2年のイチローと1年の松井が声を交わしている
イチローのマリナーズか。
松井秀喜のエンジェルスか。
今季のアメリカンリーグ西地区は、この2チームの優勝争いになる気配が濃厚だ。
英語では本命のことを“team to beat”と表現する。やっつけるべき相手。この地区では長年エンジェルスが“team to beat”だったのだが、このオフの補強でマリナーズは、エンジェルスに十分に対抗できる力をつけた……と見られる。
面白いのは、両チームの方向性が似通っていること。アメリカでは、今季のマリナーズのことを「北方のエンジェルス」と表現するメディアもあるくらいだ。
では、どこが似ているのか?
守備を重視していることだ。
守備を徹底強化したマリナーズは“エンジェルス化”!?
以前、このコラムでメジャーリーグでは選手の補強にあたって、出塁率と長打率を足した「OPS(On-base plus slugging)」と呼ばれる指標が重要視されていることを紹介した。
しかしそれが常識になったいま、OPSをアテにしてチーム編成を進めても、他のチームを出し抜くことはできない。
そこで各チームとも次なる指標を探し求めてきたわけだが、実は昨季からマリナーズのジェネラル・マネージャー(GM)に就任したザック・ズーリエンシックは、他球団に一歩先んじることでチームを劇的に変身させた。
そのキーワードは「守備」だった。
ズーリエンシックの方針は明確で、本拠地のセーフコ・フィールドは外野が広いので、センターに俊足好守のフランクリン・グティエレスをトレードで獲得した(このGMが敏腕なのは、このトレードの一部で峠を越したクローザ―、JJ・プッツをメッツにうまいこと押しつけたことだった)。
グティエレスはゴールドグラブ賞こそ逃したが、彼の広い守備範囲は投手陣の失点を防ぎ、マリナーズは「得点をやらないチーム」へと変身したのである。
マリナーズは2008年の61勝から、85勝と24勝もアップ。この奇跡的な回復は打撃や投手陣ではなく、守備力の向上によるところが大きいというのがアメリカでの評価だ。
今季もこの方針は受け継がれている。オフの目立った補強は次の通り。
・ 昨季途中で加入した安定した守備を誇る遊撃手のジャック・ウィルソンを引き止める。
・ 複数のポジションをこなせるショーン・フィギンスをライバルのエンジェルスから獲得。
・ 一塁にはこれまたエンジェルスで育ったケイシー・コッチマンを獲得。
いずれも守備で定評のある選手たちばかりである。分かりやすい。しかもエンジェルスでプレーした経験のある選手を集めるあたり、「マリナーズのエンジェルス化」が進んでいるのだ。