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シューマッハーが見せた
魂のラストレース。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/11/01 00:00
来年、シューマッハーの後を襲うライコネンは必至の抵抗を見せたが、69周目の1コーナーでシューマッハーはインをこじ開けるようにしてオーバーテイク。70周目には1分12秒162の最速ラップを叩き出したが、3位バトンには5秒ほど足りずチェッカー。仮にあと数周前にライコネンが観念していたら、3位はシューマッハーのものだったろう。
描いていた鮮やかなフィナーレとは行かなかった。では、フェラーリのプラン通りに終わっていたらよかったのか。案外、それではあざとさだけが際立つ、後味の悪さが残ったのではないか。
シューマッハーとフェラーリにとって望んでいたドラマにはならなかった。しかしそうだからこそオーバーテイクにオーバーテイクを重ねる筋書きのないドラマが立ち上がった。これこそがレースである。シューマッハーははからずもそのラストランで、レースの醍醐味のなんたるかを体現してくれたのだ。水も漏らさぬポール・ツーフィニッシュはシューマッハーの身上。しかし、たとえポイント圏外でも喜々としてバトルに没頭するのもシューマッハーである。
ブラジルは遠い。みみっちいことを言うようだが、航空チケットも高い。どうせアロンソが1点取れば終わりなのだからという“準”消化試合にあえて行くには気が重かったのだが、行ってよかったといまは思う。稀代のレーサー、ミハエル・シューマッハーの、おそらくは生涯ベスト・スリーに入るだろうレースを見ることができたのだから。
モータースポーツの宝物は、どこに転がっているか分かりはしない。