スポーツの正しい見方BACK NUMBER
連続試合出場という勲章。
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
photograph byHideki Sugiyama
posted2006/04/20 00:00
連続試合出場という記録にスポットライトを当てさせたのは、いうまでもなく、昭和50年代のカープの黄金時代を支えた衣笠祥雄である。昭和62年に18年がかりでルー・ゲーリッグの2130試合を越え、2215試合までのばしてその年に引退した。
連続試合出場記録は試合に出場しさえすればできる記録で、ホームランや打率の記録とはちがうという人もいるかもしれないが、それはちがう。それなら、各チームのレギュラー選手はみんな達成していてもよさそうなものだが、シーズン全試合に出場する選手さえおどろくほどすくない。去年は、セ・リーグは8人。パ・リーグにいたってはたった1人だった。一昨年も8人と3人だったが、2年連続ということになると、金本知憲と今岡誠と井端弘和の3人しかいなくなるのである。かつて、衣笠はその哲学をつぎのように語った。
「ぼくはいつ交代させられるか分からないという危機感と、自分のポジションというのは絶対に放しちゃいけないという感覚の二つを持っている。これが僕の野球を支えてきたんです。だから怪我しようが何しようが、自分で休みたいと思わないんなら、出ればいいと思うんだよね。怪我は自分でしたんだから自分で処理すればいいでしょ。そういう感覚の持主ね、ぼくは。だからこんな記録もつくれるんじゃない。早く怪我を治してさ、いいコンデションでゲームに出ようなんて考え方してたらできませんよ」
つまり、こういう哲学の持主だけがつくれる記録なのである。
金本知憲もその一人といわなければならない。彼は1イニングも休まずに連続試合出場を続けている。
一昨年の7月29日、金本はドラゴンズ戦で岩瀬仁紀の投球を左手に受けて骨折した。元タイガースの三宅秀史が持っていた全イニング出場のプロ野球記録、700試合にあと2つと迫る698試合目のことだった。しかし金本は翌日も試合を休まなかった。ばかりでなく、インパクトの瞬間に痛む左手をバットから離し、右手一本で2本のヒットを打つという離れ技まで演じてのけたのである。
なぜそうまでして出場するのかという質問に対して、金本は答えた。
「連続スタメンにこだわったからだ。連続出場のためではない。スタートから名前があるのは、チームに認められていることだから」
こうもいっている。
「親指がぜんぜん動かなくてもボールは捕れるし、薬指がまったく駄目で指三本でバットを握っても、ホームランは打てる。気持ちを鼓舞すれば何とでもなるんだよ」
そして4月9日、元オリオールズのカル・リプケンの持っていた連続全イニング出場の大リーグ記録、903試合を抜いて世界一になった。リプケンは、衣笠の2215試合連続出場の記録を抜いて、2632試合までのばした選手で、903試合連続全イニング出場はその間に達成した記録だった。
またリプケンは、高額年俸を求めてチームを渡り歩く選手が多くなった大リーグにあって、野球人生をオリオールズだけに捧げた選手でもある。三人に共通するのは、野球に対する姿勢の誠実さであろうか。衣笠とリプケンは引退したが、金本のような選手がまだいることは、球界の希望でなければならない。