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【準決勝プレビュー/データ編】
チェルシーvs.バルセロナ
「ヒディンク引き分け伝説」
text by
小野正太郎(データスタジアム)Shotaro Ono (Data Studium)
photograph byToru Morimoto
posted2009/05/06 10:00
ヒディンクの目論見は、ファーストレグが始まる前から決まっていたのかもしれない。「オープンな戦いになる」とファーストレグの試合前に言い放ったこの勝負師は、いざ試合のふたを開けてみると徹底的に閉じたゲームを指揮した。もしかするとヒディンクは……チェフが「司令塔」としての役目を果たして210分間を無失点で乗り切り、PK戦へと持ち込むことを考えている可能性がある。
'87-'88シーズン、ヒディンク率いるPSVはチャンピオンズカップ(今のCLに相当する当時の大会名称)の準々決勝と準決勝を、4試合連続引き分けという奇妙な戦績で通過した。敵地でのファーストレグを1-1、本拠地でのセカンドレグを0-0としアウエーゴール数の差で突破していったこのオランダのダークホースは、さらにベンフィカとの決勝戦において120分間を0-0で終え、PK戦を6-5で制し欧州の頂点に輝いたのだ。
今季、彼は準々決勝から5試合連続で引き分けで王者となった21年前の再現を、アウェーゴールに頼らず成し遂げようとしているのではないか?
ヒディンクの奇策を封じるためチェフを抑える
ヒディンクの奇策を封じ、バルセロナの決勝進出を盤石にするためには「司令塔」チェフを封じておかなければならない。カンプノウでのファーストレグにおいて、チェルシーの総パス数は340本(バルセロナは668本)にとどまった。4月8日にアンフィールドで行われたリバプールとの準々決勝ファーストレグで記録した493本(リバプールは618本)に比べ、約150本少なく、双方の試合に出場したバラックが45本(リバプール戦)から24本(バルセロナ戦)に減少したのをはじめ、当然ながらすべてのフィールドプレーヤーの総パス数は低下していた。
しかしそんな中でただひとり、総パス数が44本から50本に増加していたのがGKのチェフだ。05年3月には当時のプレミアリーグ最長である1025分間の無失点記録を樹立した経歴を持つ、長い手足を生かして冷静沈着なセービングを持ち味とする名GKだ。そのチェフが出した50本のパスのうち、成功したのは15本。うち最も多く受けたのがドログバで9本を記録し、リバプール戦の4本からは倍以上の本数となっている。
チェルシーにとって、勝利の頼みの綱はドログバのみで、彼に攻撃を一任していたのは明らかだった。バルセロナも十分予想できていたにもかかわらず、実にチェフから9本ものパスを許しており、その機能は十分果たしたといえる(一度は決定的なチャンスも作っている)。前線から猛烈なプレッシングを掛けて相手から自由を奪い、20本に上るシュート数に表れたように一方的に攻め込んでいたバルセロナだったが、最後尾に構えるチェフと彼への主なパス供給源となった最終ラインへの圧力はそれでもなお不十分だったということだ。チェフへのパス数に限定すると、テリーはリバプール戦での5本からわずか1本少ないだけの4本を通しており、センターバックでコンビを組むアレックスに至っては1本から5本へと一気に増加している。これではカウンター対策としてのチェフ、ドログバ封じには至らない。しかもバルセロナは、マルケスを負傷で、プジョルを累積警告で失っている。
今季のバルセロナは国内のリーグ戦で1試合あたり2.48(33節終了時点)と驚異的なペースで勝ち点を重ね、88年から96年に掛けてかのクライフが築き上げた「ドリームチーム」の再来とも賞されている。
91-92シーズンに、クラブ初のチャンピオンズカップ制覇を成し遂げた際のメンバーであるグアルディオラがその頂に近づくためには、スタンフォードブリッジでのセカンドレグで確実にチェフを封じなければならないのだ。
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