Column from EnglandBACK NUMBER
ヒディンクとベニテスにみる、
「4-2-3-1潰し」と
「4-3-3破り」の極意。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAction Images/AFLO
posted2009/04/17 07:01
ベニテスが採用した「4-3-3破り」の奇策。
チェルシーホームの第2戦。今度はベニテスがイニシアチブを握る。ヒディンクの4-3-3に対抗すべく、なんと同じ4-3-3(4-1-2-3)を敷いてきたのである。
ただしコンセプトはまるで別ものだった。ヒディンクは4-1-2-3の「1」にエシアンを「抑え役」として置いたが、ベニテスは「1」にパサーのアロンソを配置。その前に守備的MFのルーカスとマスチェラーノを並べた。こうして中盤でフォアプレスをかけつつ、攻撃の局面では、アロンソのパスを軸に、ベナユンやカイトによる裏への飛び出しや中央への切れ込み、サイドアタックなどから糸口をつかもうとしたのである。
これは大きな賭けだったに違いない。チェルシーにはテリーの出場停止という負荷がかかっていたが、ベニテスは初戦の敗北とジェラード欠場という、さらに大きなハンディを背負っている。しかも、この種の4-3-3はリバプールでは異例なものだった。
だがリバプールは時間の経過と共に流れを引き寄せ、ついには2-0とリードする。得点自体はセットプレーからのFKとPKから生まれたが、主導権を握ったのには必然性があった。それはエシアンを「エアポケットに入れる」ことに成功したからだ。
初戦でチェルシーが勝利を収めた要因の一つは、エシアンがジェラードを封じ込めたことにある。しかしマークする相手がいなければ、エシアンは役割を見失う。ベニテスはジェラードの欠場を逆手にとり、4-2-3-1から4-3-3にシステムを変更することで、中盤におけるミスマッチ(ジェラード抜きで点を取るための仕組み)を作り出したのである。さらには、初戦の勝利で「受け身」になっていたことも影響したのだろう。チェルシーの選手は、戸惑いと混乱を抱えたまま前半を終えてしまった。
ヒディンクはCLの、ベニテスはプレミアの頂点を目指す。
ところが後半、試合の流れは再びチェルシーに傾く。直接のきっかけとなったのはドログバの幸運な同点弾だが、ヒディンクはドログバへの楔のパスとパスカットなどを起点にしたカウンターという、本来のスタイルに回帰することを徹底。エシアンも積極的に中央に進み出るようになり、チームは勝負のあやを手繰り寄せていった。
極上の戦術戦を展開したヒディンクとベニテス。チェルシーの次の相手は4-3-3のバルサである。この優勝候補を相手にヒディンクはいかなる秘策を練るのだろうか。そしてベニテスはプレミアのタイトルレースで、さらに増えた引き出しをどう活用するのか。二人の知将の次なる采配、そして新たな一章を加えた戦術の進化に注目していくのも、佳境を迎えた08-09シーズンの楽しみ方の一つだろう。