チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
ウイング兼ストライカーの時代。
~CL決勝にみる次世代トレンド~
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byKazuhito Yamada/KAZ Photography
posted2009/06/04 11:00
ウイング的ストライカーの真骨頂といえる選手たち。
ウイング的なセンスを持ったストライカーは、欧州には数多くいる。アネルカ(チェルシー)、ベンゼマ(リヨン)、カイトとバベル(リバプール)、ファンペルシとエドアルド・ダ・シルバ(アーセナル)、ビジャ(バレンシア)、イアキンタ(ユベントス)、イグアイン(R・マドリー)……。
もちろん、マンUのC・ロナウド、ルーニーしかり。典型的なCFタイプに見えるフェルナンド・トーレス(リバプール)、シェフチェンコ(ミラン)だって、ウイングプレーを苦にしない。
思い出すのは’06-’07シーズンの決勝トーナメント1回戦。クーマン率いるPSVがアーセナル相手に金星を挙げた試合だ。
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このときのPSVは、4-4-2の布陣だったが、CFは不在だった。2トップが真ん中ではなく、両サイドでウイング然と構えたのだ。瞬間、突飛な作戦に映ったが、実は、有効性のある作戦であることが、ゲームが進むにつれて明らかになった。
アーセナルの4バックのなかで、マークを抱えるのはSBの2人。CBの2人はフリーの状態だった。だが、彼らは闘莉王ではないので、役割上、攻め上がることはできない。1対1の状況にさらされている両SBのカバーも頭に入れておかなければならない。よって、4人とも最終ライン付近で停滞することになった。つまり、2人のFWに対し、常時4人で守る非効率を招いたのだ。
エトーの先制点が露わにした世界と日本との“溝”。
バルサ対マンUの決勝戦。
バルサのCFメッシは中盤まで下がってボールを受けることがたびたびあったが、このときピッチに描かれた絵と、例のPSV対アーセナル戦の絵は確実に一致していた。マンUのCB2枚は、メッシが下がったとき、ついていこうかいくまいか判断に悩んでいる様子だった。真ん中を固めても、相手が真ん中から来なければCBの役割は曖昧になる。
一方、両SBは攻め上がりのチャンスは少なくなる。マンUがバルサに中盤を完全に制圧された大きな原因だ。両SBは、攻め上がるどころか、中盤のパス回しにも思うように絡めなかった。
両ウイングにストライカータイプを置く作戦は、4-3-3の流行にしたがい、今後ますます流行りそうである。ウイング兼ストライカーの時代が到来したと言ってもいいだろう。
翻って、日本にこの手のタイプはほとんどいない。そもそもウイングがいないので、得点力の高いウイングはまさに無い物ねだりになる。森本、大迫に可能性を感じる程度だ。
エトーの先制ゴールには、世界と日本の違いが集約されている。
僕の目にはそう見えた。