MLB Column from USABACK NUMBER
ステロイド疑惑 ロジャー・クレメンスの自業自得
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images/AFLO
posted2009/01/26 00:00
1月13日、ロジャー・クレメンスの偽証罪容疑に対する、連邦大陪審の捜査が始まった。ミッチェル報告でステロイドを使用したと名指しされたクレメンスが、「潔白を証明したい」と自ら下院公聴会の開催を求めたのは昨年1月のことだった。公聴会では、頑なに潔白を主張するクレメンスに対し、元トレーナーのブライアン・マクナミーが「私がステロイドを注射した」と詳細かつ具体的に証言して対立、議会が捜査当局に対してクレメンスを偽証罪の嫌疑で告発した経緯はこれまで本欄でも紹介してきたとおりだ。
大陪審の捜査が始まったことで、偽証罪での訴追はいよいよ最終段階へとさしかかったが、クレメンスが罪に問われる危険まで犯して頑強に「潔白」を主張した理由は、マーク・マグワイアが2005年の下院公聴会で「黙秘権」を行使した後、その評判ががた落ちになった二の舞を避けたかったからだと言われている。議員達が「ステロイドを使ったのか」と繰り返し迫ったのに対し、マグワイアは「過去について話すつもりはありません」と逃げの答えに終始したが、その結果「やっぱり使っていたのだ」と、ファンとメディアの心証を真っ黒にしてしまったのである。
2年後の2007年、マグワイアは殿堂入りの資格を得たが、議会で黙秘権を行使したことが祟り、得票率はわずか23.5%(当選ラインは75%)にとどまった。その後も、得票率は23.6%(2008年)、21.9%(2009年)と低迷、現在、殿堂入りは絶望視されているが、「ステロイド使用について認めた場合はもちろん、黙秘した場合も殿堂入りの可能性が消える」ことを見せつけられたクレメンスにとって、自分の評判を守り、殿堂入りを果たすためには「ステロイドなど使っていないと言い張る」以外に選択肢は残されていなかったのである(ミッチェル報告直後の記者会見で、クレメンスは「殿堂入りなどどうでもいい」と強がったが、この強がりを真に受ける向きはほとんどいない)。しかし、頑なな全否定にもかかわらず、チームメートだったチャック・ノブラウク、アンディ・ペティートもマクナミーの主張を裏付ける証言をするなど、クレメンスを取り巻く状況は厳しく、「公判→有罪→刑務所入り」の運命が待つ可能性は現実のものになろうとしている。マグワイアのようにおとなしく黙秘する道を選んでいたならば裁判にかけられることもなかっただろうに、全否定による強行突破作戦を選んだがために刑務所入りの心配をしなければならない羽目に陥ったのだから、「自業自得」といわれても仕方がないだろう。
ところで、大陪審の捜査が始まった前日の1月12日、2009年殿堂入り選手の選考結果が発表され、80年代のレッドソックスでクレメンスのチームメートだったジム・ライスが、選考リスト入り15年目の最後のチャンスで殿堂入りを達成した。通算成績は本塁打382本、OPS8割5分4厘と、マグワイアの 583本、9割8分2厘と比べて大きく見劣りするが、「ステロイドがなかった時代の成績だから立派」と、再評価されたことで殿堂入りを果たしたのだから皮肉だった。そもそも、「成績がぱっとしない」と過小評価されてきたライスが見直されたのも、マグワイアやクレメンスなど、ステロイド汚染選手達の成績が薬でかさ上げされていることが明瞭に認識されるようになったおかげなのだから…。