アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【特別連載 山崎浩子のアテネ日記 第9回】
ドーピング問題に思う。
text by
山崎浩子Hiroko Yamasaki
photograph byTsutomu Kishimoto/PHOTO KISHIMOTO
posted2004/08/30 14:17
アテネ五輪の男子ハンマー投げで優勝したハンガリーのアドリアン・アヌシュが、IOCによるドーピング再検査を事実上拒否したとして、金メダル剥奪の可能性があることが注目を集めている。そうすると同種目で銀メダルを獲得した室伏広治が繰り上げで金メダリストになるので、よりいっそう動向が気になっているのである。
それにしてもアヌシュはどうして検査を拒否したのだろうか。代理人によると「違反疑惑を報じられ、精神的に参っていた」(共同通信)と言うが、疑惑を晴らす手だては再検査に応じるしかなく、金メダルを失うかもしれなくても、そうしなかったことがよくわからない。
けれど、やはり共同通信によると、「オリンピックの期間中に3度のドーピング検査を受けている」というのだから、彼がもうイヤだと言うのもまったくわからないではない。
私はドーピング検査を受けたことはないが、他人に見張られながら尿を出すことを想像すると冷や汗が出る。彼は競技の少し前にも受けたというが、新体操の選手でも試合の直前にドーピング検査を強いられた人がいる。試合後ならまだしも、本番への準備もままならず、大変な思いをしたそうである。
また本当にやっていないとしたら、疑惑をかけられること自体が心外。世間は絶対に”黒”に違いないという目で見るのだから、こんなにがんばってきたのに、なぜそんな疑いをかけられなければならないのかと、泣きたい思いでいっぱいであろう。
しかし、そうはいっても、選手たちはどんなときでもドーピング検査を受ける義務がある。薬物使用がどんな結果をもたらしているかを知り、選手自らが薬物の弊害を伝える役目を担っているのである。
だからどんなに精神的にまいっていても、潔白を証明するには検査を受けるしかない。それ以外の方法は、何もない。
こんなことでたとえ室伏が金メダルを獲得しても、心底喜べないであろうことは察することができる。でももしそうなったら、胸を張って金メダルを首からかけてほしい。
獲るべくして獲った金メダルであろうから。