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為末大 「メッセージを発しながら
僕が感じたこと、考えたこと」
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/06/22 06:00
4大会連続となるロンドン五輪出場を目指してトレーニングを続ける傍ら、アスリートの枠組みを超えた活動にも積極的に取り組む為末大。社会貢献活動を目的にアスリートが競技種目の枠を超えて集う日本アスリート会議にも、アスリート代表として名を連ねた
呼びかけに多くのアスリートが共鳴し、義援金集めの輪が広がった。
彼が“その時”感じた思いと、抱いている今後の構想とは。
それが現実であり、いま起きていることだと理解するのを、拒否したくなるような光景。
3月11日午後2時46分頃に、宮城県・牡鹿半島の東南東約130km地点で発生した地震に端を発する惨劇を、為末大は練習拠点にしているアメリカ・サンディエゴで知った。
現地時間の深夜、地震と津波のニュースが流れ、その後も続々と被害情報が伝えられた。徐々に判明する被害の甚大さに、心が騒いだ。
「テレビで映像を見たのは翌朝でしたけど、ショックでした。津波が陸地を襲うのを見て『これはとんでもないことになった』と思い、自分が何をできるか、考えました。一番必要なのは被災地の救済だろうけど、実際に何ができるのかわからなかったんで……」
震災翌日の日本時間12日午後、為末は自身のブログに『アスリートにできる事』という文章をアップした。
自分がアメリカにいて何もできないもどかしさを感じていることを告白しつつ、未曾有の大災害に対しても冷静に行動する日本人の姿を賞賛。アスリートにできるのは、人を励まし、影響力を発揮して支援の輪を広げることであり、毎日のトレーニングを淡々と行なうことが大切だと訴えた。
そして『私たちアスリートは希望をもたらすプロフェッショナルです。私たちがこれまで国から社会から支援を受けたのは人々に希望をもたらす存在だからです。苦しいときに人々の力になり得る存在だからです』というメッセージを送った。
阪神大震災の教訓に学び、海外での義援金集めを決意。
「多くのアスリートが、多分苦しむんじゃないかと思ったんです。僕もそうでしたが、こんな時にスポーツをしてていいのか、という罪悪感のようなものを感じるんじゃないかと。日本には、スポーツは平和で余裕がある時にやるものという意識もあります。でも僕は、阪神大震災でもそうだったように、スポーツが大事な役割を果たせるんじゃないかとも感じています。だから選手たちにはその準備をしっかりとして欲しかったんです」
そしていま自分が何をすべきかを考えた時、頭に浮かんだのが義援金を集めることだった。当初はサッカー選手など、より著名な選手がやる方がいいのではという思いもあったが、サンディエゴへ合宿にきていた陸上の横田真人や早狩実紀と一緒に何ができるか相談しているうちに、「まずは行動を起こさなければいけない」という気持ちになった。
「すぐに帰国して何かできることをしたいという気持ちもあったんですけど、調べてみると、発生直後はプロフェッショナルでなければ役に立たないというのが阪神大震災の教訓だった。支援物資も集まり過ぎると、地元の小売業者の生活を圧迫したりして難しいと。だから一番いいのは義援金だと考えたんです。それもスピード感が大事。特に海外で義援金を集める場合は初動の早さで、その後の広がりが決まったりするので、みんなの感情が昂ぶっている時にバーッと集めれば、それを長期的に使ってもらうこともできるかなと思ったんです」