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自叙伝から読み解く
長友佑都のメンタリティ。
~『日本男児』に描かれた力の源~
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySports Graphic Number
posted2011/06/06 06:00
『日本男児』 長友佑都著 ポプラ社 1333円+税
「決して満足しない」イチロー同様の思考パターン。
「感心させられるのは、ステップアップしていく中で決して満足しないところ。4割近い打率を残しても6割以上の打ち損じを課題に挙げるイチローのように、一流のアスリートは自分の不完全な部分を常に見ている。インテルで活躍の場を得た今でさえ、『常に自分の足りないところを探している』と考える長友選手も同じ思考パターンをもっている」
さらに同著の記述からは、長友特有の「心」の素質が浮き彫りになっていく。
「高校進学のために福岡へ発つ時、友人たちが渡した手紙や写真を破り捨てる場面がありますが、これは新たなスタートを切るための儀式的なものと言えるのかもしれません。こうした自己暗示によってモチベーションを上げ、より厳しい努力を積み重ねることができるのは、極めて重要なメンタルスキルと言えます」
自らの愚直な姿を見習え、と言わんばかりの真っ直ぐなメッセージ。
チェゼーナに移籍して迎えたセリエAの開幕戦。強豪のローマと同じピッチに立った長友は心の中で叫ぶ。「来いよ! どんどん来いよ! 俺は世界一のサイドバックになる男だ」。児玉教授は、ここに長友の真骨頂を見出す。
「励ましてくれる人が誰もいない代わりに、自分で自分を励ましている。これこそ、彼の屈強なメンタルを象徴する言葉でしょう」
日本人はフィジカルに劣るという常識を覆しながら、長友はインテルでの自分の居場所を着実に確立してみせた。
「常識に縛られないという意味ではカズさんとも共通していますね。逆境をたくましさに変えてきた2人は、よく似たアスリートだと思いますよ」
強い意志の力で生きる道を切り開いた長友。その愚直な姿を見習えと言わんばかりの真っ直ぐなメッセージが、『日本男児』にはぎっしりと詰め込まれている。