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自叙伝から読み解く
長友佑都のメンタリティ。
~『日本男児』に描かれた力の源~ 

text by

日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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photograph bySports Graphic Number

posted2011/06/06 06:00

自叙伝から読み解く長友佑都のメンタリティ。~『日本男児』に描かれた力の源~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『日本男児』 長友佑都著 ポプラ社 1333円+税

 アジア杯が幕を閉じてからわずか48時間後のことだった。日本代表サイドバック、長友佑都がインテルへ電撃移籍したというニュースは、劇的な優勝の余韻に浸っていた日本中を駆けめぐり、その名を瞬く間に国民的なものにした。

 幼い頃から将来を嘱望されてきたエリートではない。少なくとも、明治大学2年生の時に全日本大学選抜チームの代表候補に名を連ねるまでは、ほとんど無名と言っていい選手だった。そこから数えて4年余り、“世界一のクラブ”の一員へと駆けあがった長友は、いまやサクセスストーリーの主人公として、日本の希望を象徴する星でもある。

 初の自叙伝『日本男児』には、この成功譚の一部始終が本人の言葉で綴られている。絵に描いたような「成り上がり」を現実のものに変えた力の源はどこにあるのか。イチロー、カズらトップアスリートの心理分析を試みてきた児玉光雄・鹿屋体育大学教授の協力を得て、同著をもとにシンデレラボーイのメンタリティを解析することにした。

母親と先生、2人への感謝の気持ちが大きなエネルギー源に。

 児玉教授がまず指摘したのは、「他者」の存在だ。

「母子家庭という環境下で自分を育ててくれた母親、そして中学時代に不良の一歩手前のところから救ってくれた井上先生。『僕はひとりじゃないし、ひとりで闘ってきたわけでもない』とあるように、この2人への感謝の気持ちが大きなエネルギー源になったことは間違いない。自分のために頑張るのは限度があるのに対して、誰かのために頑張るというのは非常に大きな力になるものなんです」

 幼少期から思春期にかけての満たされない環境が、ハングリー精神を培う意味ではかえって幸いしたと児玉教授は言う。

 そして中学時代、もう一つの転機が訪れる。井上先生の発案で、駅伝の練習を始めることになったのだ。

「弱点だと思っていたスタミナや走力に対して、実は才能があるんだということに気づくきっかけになった。長友選手はその後、この自分の武器を徹底的に磨いていくことになります。自分の武器を競技に生かす、その一点に注力するアスリートは強い。超一流のサイドバックになれた大きな要因の一つだと思います」

 自らを捧げるべき「誰か」を得て、自らに秘められた可能性に出合えた。長友は、いくつかの偶然と幸運に支えられてサッカー人生のスタートを切った。

【次ページ】 「決して満足しない」イチロー同様の思考パターン。

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