Column from EnglandBACK NUMBER
イングランドのファンを悩ませる、07−08シーズンの本当のジンクス
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMatthew Peters/Manchester United via Getty Images/AFLO
posted2007/08/28 00:00
8月11日(土)、プレミアシップの2007-08シーズンの火蓋が切られた。その前後には、シーズンオフに話すネタと気力を失った男性連中が、シーズン開幕と共に元気を取り戻すというタブロイド紙のテレビCMが盛んに流れていたが、まさにイングランド中が待ちに待った週末だった。
この国では、待てど暮らせど来なかったものが、いきなり立て続けにやって来る様を、時刻表などないも同然のロンドン・バスに例える。ファンが3ヶ月間待ち焦がれたプレミアシップも、数珠繋ぎになって到着するバスさながら。いったん始まったかと思えば、開幕後の1週間で大半のチームが3試合を消化することになった。全国のパブでは、パイント・グラス(約570ml入りのビール用グラス)を手にした人々が、早速、サッカー談義に花を咲かせている。
そのような場で必ず耳にするのが、“second year syndrome(2シーズン目症候群)”というフレーズだ。その症状とは、昇格1年目に予想外の躍進を見せたチームが、翌年に現実の厳しさを思い知らされ、憂鬱な日々を送るというもの。昨シーズンも、昇格直後の前シーズンには9位と10位につけたウェストハムとウィガンが、残留争いの泥沼にはまってしまっている。
今シーズン、発病が心配されていたのはレディング。昨シーズンは、クラブ史上初のプレミア参戦ながらUEFAカップ出場権獲得まであと1ポイントと迫った。これはサポーターですら予期せぬ好成績だったことは言うまでもない。
しかし、問題の2シーズン目に向けてのプレシーズンは予想通り芳しくなかった。中盤の動力源であったスティーブ・シドウェルが、フリーでチェルシーに移籍。にもかかわらずスティーブ・コッペル監督は、チームの和を重視して補強を最小限に止めたからである。加えて、レギュラー・ストライカーのリロイ・リタが、何をどうしたのか、自宅のベッドの上で膝を負傷。指揮官が、「世間では笑い話だろうが、本人とチームにとっては深刻な問題だ」と嘆く状況を招いてしまった。
レディングの開幕戦の相手は、マンチェスター・ユナイテッド。その3日後にはチェルシー戦。サポーターがいきなり鬱になる可能性もあったが、心配は無用のようだった。ユナイテッド戦では、5−4−1兼4−5−1のシステムで、0−0の引分けに持ち込んでいる。アウェーとはいえ、「度が過ぎる」と非難されても仕方のない戦術だが、マンツーマンで守り通したチームには、「ここまで実践できれば大したもの」と、評論家も舌を巻いた。MVPに輝いたCBのマイケル・デュベリーも、「ルーニーやロナウドが相手だからね。2ストーン(約13キロ)は痩せたんじゃないかな。体重が落ちるのは大歓迎だけど(笑)」と、試合後に納得の表情を見せた。
ホームでのチェルシー戦では、一転して、4−4−2で本来の攻撃的サッカーを展開。結果的には逆転負け(1−2)を喫したが、積極策が裏目に出たわけではなかった。2失点は、後半開始直後の一瞬の隙をつかれたもの。「狙い通りの戦いができていた」というコッペルのコメントは強がりではない。続く3節は、開幕から好調なエバートンに押されながらもチーム一丸となって戦い、1−0で今シーズン初勝利を記録した。既に2名の退場者を出しているが、11人のハードワーカーによる全員サッカーで、最終的には「持たざる者の希望の星」と評価されるに違いない。
惜しむべきは、開幕戦前半に、イングランド代表のエースを負傷させてしまったことだろうか。不慮の事故ではあるが、デュベリーと接触した際、ウェイン・ルーニーが左足に亀裂骨折の怪我を負ってしまった。初診の結果は全治2ヶ月。今秋に再開するユーロ2008予選のうち9月の2試合は問題外として、10月半ばの2試合にも出場できないのではないかと危ぶまれている。
国民が、「ルーニーは間に合うのか?」と気を揉むのは、昨夏のW杯前に続いて2度目。ここで脳裏をよぎるのが、『二度あることは三度ある』という有り難くないことわざだ。どうやらイングランドのサッカー・ファンは、レディングなどにまつわる2シーズン目の憂鬱ではなく、代表に関するもう一つのジンクスを危惧しながら、今シーズンを送ることになりそうだ。