Column from SpainBACK NUMBER
味気ない定食屋。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/08/31 00:00
最近スペインの定食屋さんで、創作料理のウケがいい。昔ながらのスペイン料理をちとアレンジしたりして。でも、お洒落な内装に誘われて行ってみると、料理が味気ないなんてこともけっこうある。デザインに騙されるわけで。
「不味い」なんて、食べてからシェフに文句はいえない。けれども、8月26日の開幕戦を報じるバルセロナのスポーツ紙は、はっきりとケチをつけていた。「ケ・ベルグエンサ(恥を知れ)」と。
「バルサ屋」の内装は、アンリ獲得でさらにお洒落になった。端から見れば世界屈指の超高級店だ。しかし、行列のできる環八のラーメン屋ではないが、噂ほどではなかった。
楽勝と思われたラシン・サンタンデール戦では、後半なかばにラシンの選手が退場したというのにバルサ風味が出ないまま、0−0でタイムアップですから。拍子抜けである。
まだまだ、ほんの38試合分の1に過ぎないから、目くじらをたてることでもないかもしれない。でも、騙された気分ではある。
そもそもバルサとラシンでは選手獲得にかけたコストが違う。「0ユーロ」をモットーにやりくりしてきたラシンを圧倒してのドローならまだしも、いい勝負をしていたもんだから罵声も飛ぶ。
がっくりさせたのが、イニエスタだった。ライカールトは「ベンチなら出て行くまでさ」発言でインテル行きが噂されるデコをスタメンから外したが、これが裏目に出た。
ハーフタイムで、このままではヤバいと思ったのかロナウジーニョがイニエスタに近寄る。両手を後ろにやったりする身振りからすると、こんな檄を飛ばしていたと思われる。
「オレが相手ディフェンスを背負っていても、ボールを当てろ」と。会話の最後にロニーは右足を後ろに伸ばした。これは、「ボールをヒールでスペースに流すこともできるから」だろう。
でも、新入生のヤヤ・トゥーレの守備を心配してしまう優しさからか、それからもイニエスタのアグレッシブさは芽生えなかった。しかも、後半24分にヤヤ・トゥーレと交代して出てきたデコはふて腐れ感がプレーに影響していたし。アンリとロナウジーニョがふたり揃って左サイドに流れてボールを待っているのも、本番ではあってはならないシーンだった。エトーは右サイドにいて、ゴール前には誰もいないなんて……。
とりあえず開幕戦とはこんなもん、で済めばいい。アジア遠征からずっと楽なゲームをしてきたから、たまったツケの支払いに追われなければいいけど。
前評判では、よっぽどレアル・マドリーのシュスター新監督のほうが分が悪かった。なんせ、プレ・シーズンではPSV、ベティスに負けたのに続いて、セビージャにも2連敗だったから。だが、敗戦は良薬となる。
ライカールトとは違って、このドイツ人監督はベストな選択で勝利を呼んだ。グティをスタメンに戻したことやドレンテを初手から左サイドバックに配置したのも敗戦から学んだことだ。毎度ながら飛び出す「ラウールはどうする?」問題も、先発起用で解決している。
また、後半31分に昨季得点王のファン・ニステルローイとサビオラをあっさり交代させたのも、逆転弾へと繋がった要因である。
ただ、ファン・ニステルローイとポジションが重なりやすいサビオラを今後どう起用していくかは未知数。アンリとロナウジーニョと同じで、阿吽の呼吸となるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
いまのところドイツ人とオランダ人の創作料理は、残念ながらけっこうしょっぱい。新鮮なネタは揃っているけど、胃もたれには要注意である。
ロッベンとハインツェが加わった定食屋「マドリー」も内装はすこぶるいいが、これだけの新鮮なネタが集まれば、あぶれる選手もいる。この先、「バルサ」同様、微妙な塩加減が求められるだろう。
ラウールを外しますか?エトーをベンチに置けますか?
食い合わせが悪いのだけは、避けたい。
店が潰れてしまいます。