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<そりと会話しながら> 原田窓香 「リュージュにかける青春」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph bySatoko Imazu
posted2010/01/31 08:00
ヤマハ発動機から年間100万円の助成金を。
バンクーバーへ向かう方向性は決まったが、原田の心のなかには引っかかっていることがあった。お金の問題だった。リュージュなどのマイナー競技は、W杯などに遠征をするときに自己負担金が必要になる。ジュニア時代は少なかった自己負担金も、W杯へ遠征するようになった頃には年間100万円ほど必要になっていた。それを親に出してもらうことを、少し窮屈に感じるようになっていた。
そんなときに見つけたのが、ヤマハ発動機スポーツ振興財団が主宰する「スポーツチャレンジ体験助成」だった。その2期生に応募し、'08年4月から年間100万円の助成をしてもらえるようになった。
「あれで気持ちが楽になりましたね。それまでは、親に頼みにくいなと思ってできないこともあったけど、自分でお金の使い道を考えられるようになったし。以前は成績が悪いと落ち込んでやめたくなることもあったけど、今は自分がやりたいから続けているんだという気持ちが強くなりました」
イタリアでのトレーニングで自分の成長を確認できた。
'08年5月からは、イタリア北部、オーストリアの国境に近いキーンスへ住み、プライクナー監督の指導を受けることになった。そこでの練習は新鮮だった。日本での夏場の練習は、スタートタイムを上げるための筋力トレーニングが主だったが、イタリアではバランスボールやトランポリンに乗ったり、マウンテンバイクで走ったりなど、滑りを意識したバランストレーニングもやっていたのだ。
「滑っているときには、腹筋には力を入れているけどほかのところは力を抜くとか、体の右側は力を入れるけど左側は抜くという状況がすごくあるんです。意識していてもラインが乱れたときなどは全身に力が入ったりしてしまう。でも、イタリアでバランストレーニングをやってシーズンへ入ったら、力を抜こうと思ったところでうまい具合に力がすっと抜けたり、ここは操作をしてはいけないというところで我慢できたりとか、トレーニングの効果を実感しました」
勝つために大事なのは「最高の滑り」より「80%の滑り」。
原田のこれまでのW杯最高成績は、'07年開幕戦の11位だ。昨季はそこまでは行かず、総合も20位だったが、大きな手ごたえを感じたという。合計タイムでの結果こそ残せなかったが、1本の滑りだけを見れば7位や8位になっていた。結果を出せないもどかしさに苦しんだが、ひと桁の順位に手が届くところまできたという自分の成長を確認することができた。
「最近すごく思うのは、勝つために大事なことは、理想のラインを求めることよりも、ミスが起きたときにいかにリカバリーするかなんじゃないかということです。一番強いドイツ人選手の滑りを見ていると、カーブの入りでミスしたと思っても、出口の映像に切り替わったときにはもう修正しているんですよ」
日本人的な発想だと完璧を目指しがちだ。だが、時速130km以上の世界で、15~16あるカーブをすべて完璧に滑るというほうが無理な話だ。「最高の滑りをしたい」という考え方から、「80%出せればいい」と考えられるようになり、余裕も持てるようになった。