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<そりと会話しながら> 原田窓香 「リュージュにかける青春」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph bySatoko Imazu
posted2010/01/31 08:00
大きな夢を抱えて、彼女は氷上を駆け抜ける。
長野市ボブスレー・リュージュパーク「スパイラル」。スタートハウスにそりを置いた原田窓香は、スタート付近の氷の状態を少し見ると、コース沿いの道をゆっくり歩いて下りていった。それまでの練習でミスをしていたカーブを見るためだ。30分ほどして戻ってくると、スタート台の後方に立って目を閉じ、コース取りのシミュレーションをする。上半身を揺らしながら、前に伸ばした両手を複雑にくねらせる。
氷と会話をしているのだろうか? そう問いかけると、彼女はこう答えた。
「氷も刻々と変わるけど、滑っているときに話しかけるのはそりのほうですね。どこへ行きたいの? あっちのほうへ行こうよって。直線へ出るときは、どう行くかわからないと体に力が入ってしまうんです。でも、そりを信頼できていると、ある程度の方向が定まれば、あとはふわっと乗っているだけで思ったほうへ行ってくれるんです」
最近はとくに、そりとの一体感が大切だと思うようになってきたという。そりと一体になると、極端な話、操作しなくても「こっちへ行ってほしい」と思うだけで曲がるのだ。
「昔は友だちに『リュージュって寝てるだけでいいんでしょ』と言われると、ちょっとむっとして『そんなことないよ』って答えていたんです。でも最近は、実は寝ているだけなのが一番速いんだよねって思うようになりました。なかなかそれができないんですけど」
ジュニア育成に注力する協会の後押しで中1から海外遠征に。
原田がリュージュを始めたのは小学5年生のとき、両親に勧められてだった。長野市で教員をしていた父・良介さんが'98年長野五輪の競技役員の募集に応募して、リュージュの担当になったことがきっかけだった。
昨年12月に行なわれた全日本選手権で1回目、2回目ともにトップタイムで滑り7年連続7回目の優勝を果たす
氷を張ったコースをそりに寝そべって滑り降りるリュージュは、そり競技のなかで最高速度を誇るスリリングなスポーツだが、日本では超マイナー競技と言っていい。競技人口も日本では極端に少ない。
「親も、これなら五輪に出られると思ったんじゃないですか」と原田は笑う。学校の合唱部に入りたかったが、両親に「入ってもいいけど、リュージュもやりなさい」と言われて嫌々始めた。それでもやってみると、ウォータースライダーの延長のようで面白かった。
彼女が幸運だったのは、日本ボブスレー・リュージュ連盟が長野五輪後、ジュニア育成に力を入れていたことだった。一緒にやっていた2人の選手とともに、中学1年生のときからジュニアW杯などで海外に遠征するようになった。