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読売巨人軍・清武代表に聞く 「人材育成の新戦略、成功までの舞台裏」
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/11/16 10:30
試合前に自らトンボを持ってグラウンドを整備する育成選手たち
育成選手に必要なのは自分の役割を見抜く眼力。
坂本のあとを打つことの多い松本も、育成という「器」がなければプロに入っていたかは疑問だ。
「契約金は無しで年俸240万円という条件も知っていましたが、声をかけてもらったんだからと決めました」
プロに入ったら育成も支配下も同じだ。負けたくない気持ちは人一倍強かった。だが、それだけでなくチーム事情をしっかり見抜く目も持っていた。
「チームは脚の速い選手を必要としている。自分がアピールできるのも脚だ。それはいつも考えていましたね」
スピードある若手を起用して、チームカラーを変えようとする時期に立ち会っていることを理解していたのだ。
育成の選手は、まず支配下に入らなければならない。しかも期限がある。支配下になっても一軍までは遠く、レギュラーとなるとさらに遠い。がむしゃらにやるのももちろんだが、ただ周りを見ずに進んでも遠回りをする。なにが求められているのかを理解すること。育成という「身分」が松本にそうした目を持たせたのかもしれない。
ダルビッシュに食らいついた松本哲也の闘争心。
もっとも松本が育成にいた期間は短かった。1年目の春季キャンプで俊足と守備力を買われて支配下に入る。2年目には一軍に昇格して、3試合だけ出場した(初打席の走塁で自慢の脚を骨折してしまったが)。この年から打撃フォームの改造に取り組み、今年は飛躍的に確実性を増した打撃でレギュラーポジション争いの先頭に立っている。
「育成で入団したこともあるし、1打席だけで骨折して二軍に落ちたこともあって、絶対に落ちないぞという気持ちは強いですね。育成出身だからこそ怠けたら下がる一方だというのが身に染みている」
交流戦では、ダルビッシュ有から2安打して勝利に貢献した。気持ちの強さを評価する人は多い。
育成の現場を預かる育成部統括ディレクターの松尾英治は育成選手の闘争心に注目する。
「はい上がろうとする気持ちはやはり強いですね。気持ちが前面に出る」
30センチ近く身長の違うダルビッシュに食い下がった松本の打撃など、闘争心が露骨なくらいに見てとれた。