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読売巨人軍・清武代表に聞く 「人材育成の新戦略、成功までの舞台裏」 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byNaoya Sanuki

posted2009/11/16 10:30

読売巨人軍・清武代表に聞く 「人材育成の新戦略、成功までの舞台裏」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

試合前に自らトンボを持ってグラウンドを整備する育成選手たち

「ヤンキースのように獲り、カープのように育てる」

 山口の支配下選手登録に待ったをかけた代表の清武は、育成制度の旗振り役、実質的な創設者である。

「直接のきっかけは'04年、'05年の低迷です。特に若い戦力がなかなか育たない。そのためにチームの空気もよどんでいた。本来なら支配下選手70人の枠を取っ払い、見込みのありそうな選手をどんどん獲って競争させたいところなんですが、すべての球団の賛同を得るのはむずかしい」

 そんな時、広島カープの鈴木常務のアドバイスを得て、育成というシステムを思いついた。支配下には入れない、契約金も出さない。ただし、いっしょに練習はさせるし、試合への出場機会も球団が準備する。期限は3年。その間に支配下で採用されなければ契約は打ち切る。

「チーム編成はFAやトレードのような補強と自前で育てるのと、両方のバランスが取れなければ失敗する。ヤンキースのように獲り、カープのように育てる。それがわれわれの理想なんです」

 なんと欲張りな。もちろん、ジャイアンツの強化が最大の目標ではある。だが、それと同時に、育成のシステムを考えた背景には、日本球界全体の選手強化の仕組みに危機感を持っていたからだ。

「ファームの試合は年間100試合そこそこ。若くて経験を積まなければならない選手が一軍よりも40も試合が少ないんです。これではなかなか成長しない。例えば、坂本勇人は新人の年、ファームで330打席ほど打ちましたが、レッドソックスのルーキーは1年で500打席は経験する。この差は大きい」

ジャイアンツは新たな育成チームを発足させた。

 現状のファームの枠組みでは自前で戦力を育て上げるのには限界がある。それはジャイアンツに限らず、他球団にも共通する悩みである。それを少しでも解消しようと、清武が中心になって新しいチームが誕生した。ジャイアンツを中心にイースタンリーグの所属チームから選手が集まるフューチャーズと、マリーンズと合同で育成と若手の選手で構成されるシリウスである。

「今までの二軍をアメリカの3Aになぞらえれば、フューチャーズは2A、シリウスは1Aに当たります。今年はフューチャーズは44試合、シリウスは24試合を予定しています」

 従来の70人の支配下選手にくわえ、ジャイアンツは12人の育成選手を抱える。その選手たちに、相応の出場機会を与えるには新チームの創設は欠かせなかったのだ。フューチャーズはイースタンリーグで試合のない1チームと戦い、シリウスはクラブチーム、社会人チームと試合をする。将来的には地域リーグとの交流も生まれるかも知れない。

【次ページ】 育成枠は、チームが選手を育てる力を試される制度。

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