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ACミランよ、どこへ行く。
text by
宮崎隆司Takashi Miyazaki
photograph byAri Takahashi
posted2008/12/18 21:49
一方のガッリアーニは、「現場」とは無縁の人物だ。元々はモンツァ市の職員で、その後テレビ業界への進出を果たし、そこでの業績が認められてベルルスコーニ・グループの傘下に入った。'86年、ベルルスコーニがミランを買収すると、クラブのCEO(最高経営責任者)に就任。副会長に就任したのは1994年だった。そしてベルルスコーニが首相になると会長を退くため、その間に絶大な権力を握っていったのだ(注:現在も'08年5月にベルルスコーニが3回目のイタリア首相に就任し、ミラン会長職は空位となっている)。
それが過信につながってしまった。ロナウド、エメルソン、ファバッリ、ザンブロッタ、そしてロナウジーニョ。ガッリアーニの主導で獲得した選手たちである。いずれも“完成品”ばかりで、選手の成長を見極める鑑識眼を備えていないことは明らかだ。指摘されて久しいチームの高齢化が一向に改善されないのも、彼の“節穴”が元凶といわれている。
とはいえ、こうしたナンセンスな補強を副会長1人の責任とすべきではない。前出の番記者はいう。
「冷静な状況分析に乏しく、長期的な視野に立ったプランが無いに等しいのは、クラブ運営がしょせんはオーナーであるベルルスコーニの趣味の範疇に過ぎないからだ。オーナーが欲しい“モノ”を買い集めているだけなので、補強は当然行き当たりばったりになる」
会長を退いていても、ベルルスコーニの影響力は絶大で、彼の存在は「神の領域」に達しているといっても過言ではない。ガッリアーニはクラブの最高責任者でありながら、神には逆らえないのだ。いまだにクラブの重大な意思決定の際には、オーナーの判断を仰いでいる。新規選手を獲得する際も、結局はベルルスコーニの「欲しいか、いらないか」が最終判断となる。その結果として、数年前のレアルを彷彿させるスター集団ができあがったというわけだ。
この現状をティフォージ(サポーター)はどう捉えているのだろうか。彼らミラニスタの本音を確かめるべく、直接取材を試みた。
ただ、見ず知らずの人間、ましてや日本人に聞かれたところで彼らが胸襟を開くわけがない。無知の人間を諭すかのようにミランへの美辞麗句を並べるのがオチだ。それを避けるために、ある「仕掛け」を作ることにした。
目指したのは「敵地」。ネラッズーロ(黒と青)、すなわちインテルのティフォージが集まるパブを最初の目的地とした。
早速、該当者を発見。一番奥のテーブルの5人組が、「日本人がこんなところに何しに来やがった」といわんばかりに睨んでいる。こちらが近づくと着席を勧められ、いざ座ると彼らの口調が一気に荒くなった。
「なんだ、その気色の悪いマフラーは!?」
首もとに彼らが世の中で最も忌み嫌うロッソネロ(赤と黒)を、すなわちミランのマフラーを忍ばせていたのだ。予想通りのリアクションが返ってきた。ミランへの罵詈雑言の嵐。彼らの言葉のほとんどが活字で表現できないものばかりだったが、それらをまとめると、「ベルルスコーニを筆頭にサッカーを知らない連中が趣味でやってるお遊びクラブ、それがミランだ!」ということになる。
仕掛けの下ごしらえは無事に済んだ。いよいよ本来の目的地へと向かった。目指すべき場所は一目でわかる。外装も内装も赤と黒のみでデザインされたレストラン、ミラニスタの聖地である。ミランの応援歌が店内に流れる中、赤と黒の紋章をタトゥーに入れている男たちを掻き分け、今回の仕掛けを試すにふさわしいグループを探した。
今度は7人。彼らの中に割って入り軽く自己紹介すると好意的な反応を示してくれた。「何の用だい?」との問いを合図に、仕掛けの引き金を引くことにした。
「さっき、インテリスタたちがこんなこといってたけど……」