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ACミランよ、どこへ行く。
text by
宮崎隆司Takashi Miyazaki
photograph byAri Takahashi
posted2008/12/18 21:49
瞬時にして7人の怒りが沸点に達した。周囲の客に飛び火しそうな勢いだ。先ほどのインテリスタを上回る勢いで罵詈雑言の嵐が吹き荒れ、その中の1人が一際激しかった。
「ティフォージは極右、だがクラブ首脳は極左。矛盾だらけのクラブがインテルだ!」
罵声が唾と一緒に飛んでくる。彼が一息ついたその隙に、1月に加入するベッカムについて聞いてみた。
「カネを運んでくれるんだったら誰だっていい。その儲けで来年エトーが買えるんだったら、ベッカムの野郎でも何でもありだ!」
彼の罵声に他の6人は皆うなずいている。そろそろいい頃合いだろう。最後の問いは、7人全員を見渡しながらぶつけることにした。
「じゃあ、やってるカルチョが退屈でもいいのか?」
連中は揃ってこう答えた。
「クオリティー? そんなのはいらない。要は、ミランが勝てばそれでいいんだ!」
名門の未来を大きく左右するミラン・スピリットの継承。
勝てばいい。イタリア・カルチョの結果至上主義をわかりやすく端的に表した言葉である。ミラン上層部はティフォージたちの熱い思いに応えるべく、なりふり構わずビッグネームをかき集め、ある程度の結果を出している。上層部とティフォージに問題意識がなくて当然といえばそうだろう。彼らにとってチームの機能性など二の次だ。
しかし、現場の責任者である指揮官アンチェロッティはたまったものじゃないだろう。カルチョを知らないボスの気まぐれにより、望みもしない選手がやってくる。結果として陣容の戦力バランスは非常に偏ったものとなる。それらをチームとしてまとめなくてはならないのだ。アンチェロッティの苦悩たるや推して知るべし、である。
にもかかわらず、監督以下、現場スタッフはピッチで結果を残すことができている。それは前出の番記者いわく、「ミランにはロッカールームに脈々と流れる独自のスピリットがある。それがチーム作りにおけるコンセプトの欠如を補っている」からだという。
ミラン独自のスピリット──。その真意は、バンディエラ(クラブの象徴)である主将マルディーニの言葉に集約されている。
「偉大なキャリアを誇る選手であろうと、ここでは単なる歯車の1つに過ぎない。これを理解できずして、ミランの一員にはなれないのさ」
チェーザレ・マルディーニ、ジャンニ・リベラ、フランコ・バレージと、各時代のバンディエラたちが紡いできたキャプテンの系譜を継ぐパオロ・マルディーニでさえ、「歯車の1つに過ぎない」のである。