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バイエルン・ミュンヘン「理想主義者クリンスマンの流儀」
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![木崎伸也](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/5/a/-/img_5a09f11ff4228cd70b90293a70abe0289042.jpg)
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byRyu Voelkel
posted2008/12/18 21:53
![バイエルン・ミュンヘン「理想主義者クリンスマンの流儀」<Number Web> photograph by Ryu Voelkel](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/5/8/700/img_583d3962b3849775961da187b4edf32519814.jpg)
魔法の三角形──。
ミュンヘンの地元紙は、バイエルンの新たな攻撃のカタチをそう名づけた。
左サイドにそれは存在する。
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MFのリベリー、ボランチのゼ・ロベルト、サイドバックのラームを線で結ぶと、きれいな三角形ができる。そのトライアングルが、ひとつの生き物のようにカタチを変えながら相手陣内に攻め込んでいくのだ。
3人とも身長は、170cmそこそこしかない。日本人Jリーガーに比べても小さいほうだ。しかし、ひとたびボールを持てば、それぞれが個性溢れるドリブルで1対1の勝負を仕掛け、残りの2人が猛然とフリーランニングで追い越していく。
11月第4週に行なわれた2試合を見ると、いかにこの3人がバイエルンの攻撃の中心を担っているかがよくわかる。CLのステアウア・ブカレスト戦(3―0)、ブンデスリーガのレバークーゼン戦(2―0)では、ともに全得点が“魔法の三角形”から生み出された。ドリブルは豹のように速く、トリッキーなダイレクトプレーで幻惑し、走っている選手の足元にピタリとパスを合わせることもできる。スモールフットボールを体現する3人──フランス代表、元ブラジル代表、ドイツ代表の競演は、まさに魔術だ。
リベリーは自信たっぷりに言う。
「ゼ(・ロベルト)とラームと自分。似たもの同士だから、連携もバッチリだ。この3人を中心に、今バイエルンの攻撃は、アドリブの多い、とても魅力的なものになっている」
開幕当初、バイエルンは設計図なしに作られたポンコツ車のように、エンストばかり起こしていた。ぶっちぎりで優勝した昨季からほとんどメンバーが変わっていないというのに(GKカーンが引退したくらいだ)、第6節まで2勝2分2敗と振るわず、順位は9位にまで落ちてしまっていた。
当然のごとく、今季監督に就任したクリンスマンは、厳しい批判にさらされた。自らのフィロソフィーを喧伝するばかりで、一向にそれが実現されなかったからである。
クリンスマンの宣伝文句はこうだ。
「なるべく短い時間で、相手ゴールに迫る。切り替えが速く、中盤がコンパクトで、ダイレクトプレーが多い近代的なサッカー。私たちは1人当たりのボール保有時間が1秒台になるような、縦に速いサッカーを目指す」
メディアからは“ワンタッチ・フットボール”と名づけられ、バイエルンの新たな象徴になる、はずだった。
しかし、クリンスマンの意図に反し、増えたのは得点ではなく、むしろ失点のほうだった。昨季はヒッツフェルト監督の下、鉄壁のディフェンスで21失点しかしなかったのが、今季は倍のペースで点を奪われている。
原因ははっきりしている。
選手たちに「縦に速く」という意識は浸透したのだが、どうしても攻撃が“直線的”になってしまい、相手にパスを読まれやすくなった。その結果、簡単にパスカットされて、前に攻めようとしたところへカウンターをくらうという悪循環に陥ったのだ。
結果が出なければ、チームの雰囲気は悪くなる。9月30日、CLのリヨン戦では、センターバックを組む2人、ブラジル代表のルシオとアルゼンチン代表のデミチェリスが、失点後に口論になった。
〈ブラジル対アルゼンチンの代理戦争。DFラインの主導権をめぐって衝突〉
『スポーツ・ビルト』誌はそう面白おかしく報じたが、昨季の2人は素晴らしい連携を見せていたのだから、クリンスマンの戦術のしわ寄せがDFラインに来たと見るほうが正しいだろう。
また、クリンスマンの一貫しない方針にも、批判が集中した。
(続きは Number718号 で)
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