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ACミランよ、どこへ行く。
text by
宮崎隆司Takashi Miyazaki
photograph byAri Takahashi
posted2008/12/18 21:49
その“ミラン・スピリット”は、現在のチーム内に色濃く浸透している。セードルフは第2節でジェノアに完敗を喫した直後、アンチェロッティ監督に「(ロナウジーニョを生かすために)自分が中盤で守備に貢献したい」と進言した。この夏、ロナウジーニョの加入に難色を示し、背番号10を頑として譲らなかった彼が、「チームが勝つために必要なら」と自ら汚れ役を買って出たのだ。
以降のセードルフはガットゥーゾに劣らぬ運動量で中盤の守備に貢献し、『ロ・カ・パ(ロナウジーニョ、カカ、パト)』と呼ばれる華麗なブラジル人トリオを後方から支えている。また、自らをエゴイストといって憚らないインザーギでさえ、今季は一度として控えであることに異議を唱えたことがない。このように、チーム内で大きな影響力を持つベテランたちが皆、フォア・ザ・チームに徹しているのだ。彼らの言動はチームメイトたちを大いに鼓舞し、それが今季の好成績の一因になっているともいわれている。
こうして選手たちは名門の品格とプライドを守ろうと懸命な努力を続けている。しかし近年のミランの栄光を支えた主将マルディーニは今季限りで現役を退く。次期主将はアンブロジーニといわれているが、歴代の面々と比べると格落ちの感は否めない。マルディーニほどのリーダーシップをアンブロジーニに求めるのは酷だろう。したがって、ミランの未来を占う上で、「今季、そして来季が重要なシーズンになる」との指摘がクラブ周辺から頻繁に聞こえてくる。
このように一大転機を迎えようとしているクラブのトップに君臨するベルルスコーニには、より賢明な振る舞いが求められていることだけは間違いない。少なくとも、アメリカの次期大統領を指して「日焼けしている」とのたまったりしている場合ではないはずだ。
しかし、いってしまえばこれがイタリアなのだ。何事にも大いなる矛盾──例えば全国ネットのTV3局、全国紙1社を所有する者が一国の首相を務めるなど──を孕んでいるのが、この国の独自性でもある。
おそらくベルルスコーニが健在である限り、ミランの構造的な問題は改善されないだろう。もっとも、そうしたイタリア的な矛盾こそがミランの、ひいてはセリエAの醍醐味なのかもしれないが。