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2010年の星たち。 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

posted2006/07/24 00:00

 メッシは、たった3試合に出場しただけで初めてのワールドカップから姿を消した。リケルメが王様として君臨するアルゼンチン代表にあって、彼の居場所は最後まで見つからなかった。

 ドイツ大会において、もっとも期待された若手がメッシだった。18歳という年齢にしてバルセロナでは自伝が出版され、世界中のメディアはマラドーナの再来だとこぞって絶賛した。アルゼンチンのファンは、この少年がトロフィーを掲げる横断幕を誇らしげに客席に貼り巡らした。だから、控えのままベスト8で敗退したドイツ大会での結果は、期待外れということになるのだろう。

 それでも、メッシの評価が下がることはない。マラドーナが台頭した'80年代とは、すでに時代が様変わりしている。ワールドカップは、もはやサッカー界のすべてを決めるイベントではない。世界中のスターや金の卵はヨーロッパに集結し、チャンピオンズリーグで日々情報は更新されるからだ。メッシはすでに、確固たる地位を築いている。

 メッシの素晴らしさは、超人的なスピードにある。1ゴール1アシストを記録したセルビア・モンテネグロ戦が圧巻だったが、生で見る彼のドリブルは恐ろしく速かった。応対するマーカーが足を出したときには、すでに1歩も2歩も前を行っているのだ。

 しかも彼は、ドリブルの速さとともに素早さもある。多少難しい体勢でパスを受けても、ボールに触れた瞬間、メッシはつむじ風のようにドリブルをスタートさせ、大きな敵の懐に潜り込んでしまう。

 マラドーナの時代は、そこまでのスピードは必要とはされていなかった。いまは違う。ピッチの広さも試合時間も変わっていないが、少しでも立ち止まると敵に囲まれてしまうし、敵の態勢も整ってしまう。したがって、勝負は一瞬で決めなければならない。そのためには「速く、早く、そして正確に」がキーワードだ。メッシには、その三拍子が高いレベルで備わっている。チーム編成上の不運はあったが、若手というカテゴリーに限らずとも、この大会で傑出したタレントのひとりだった。

 リケルメ軍団の中で悲哀を味わったのは、メッシだけではない。もうひとりのマラドーナ二世であるテベスも、その才能を発揮するチャンスに恵まれなかった。

 現代的なメッシとは異なり、テベスは路地裏の危険な匂いをぷんぷんと漂わせる。コリンチャンスでブラジル全国選手権の得点王に輝いた彼は、もしかするとゴールを決めることと同じくらい、観客を魅了することに生き甲斐を見出しているかもしれない。

 スタメン出場したドイツ戦では、2度ほど対面のフリードリヒの股間を抜き、尻もちを食らわせた。さらに2、3人に囲まれると、待ってましたとばかりに得意の引き技を繰り出して包囲網を脱出する。そのたびに観客席や記者席から、歌舞伎の屋号のように「カルリートス!(テベスの愛称)」の掛け声が飛ぶのである。いまの時代、こうした独創的な選手は少なくなった。できることなら、ずっと南米に居座り続けてほしいものだ。

【次ページ】 快進撃を支えた、ドイツの若手たち。

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