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37歳の挑戦・葛西紀明 「あの悔しさが忘れられない」 ~特集:バンクーバーに挑む~ 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byMakoto Hada

posted2009/12/05 08:00

37歳の挑戦・葛西紀明 「あの悔しさが忘れられない」 ~特集:バンクーバーに挑む~<Number Web> photograph by Makoto Hada

世界選手権ではメダルを獲得したのに、五輪で勝てない。

 だが、思いもよらぬ要素が、葛西をはじめ日本の選手たちを苦しめることになった。長野五輪後に制定された板の長さについての制限、いわゆる「146%ルール」の導入である。身長の高い海外の選手たちにとって有利な変更は、日本の選手たちには不利を招いた。対応に苦しめられ、じわじわと成績を落としていった。

 長野五輪のヒーローだった船木は不調にあえぎ、原田雅彦も精彩を欠いた。

 その中で葛西は、日本のエースとして奮闘を続ける。'03年の世界選手権では一人気を吐き、ノーマルヒル、ラージヒル、ラージヒル団体すべての種目でメダルを獲得している。

 では、オリンピックではどうだったか。

 '02年のソルトレイク五輪はノーマルヒル49位、ラージヒル41位、ラージヒル団体は不振を理由にメンバー落ち。

 '06年トリノ五輪はノーマルヒル20位、ラージヒル12位、ラージヒル団体6位。

 国際舞台でいくら活躍しても、オリンピックになると思うような結果が残せないままに、今日まで来た。

みんなが持っているのに、自分だけは持っていない。

 5度のオリンピックを振り返り、葛西はこんな分析をしている。

「怪我とかツキがなかったとか、いろいろな原因はあると思いますが、大きかったのはメンタルの問題ですね。どうしても入れ込んでしまうところがあった。あとは調整が……。ワールドカップ全試合に出て、その上オリンピックというか、常に体を動かしてトレーニングして向かうっていう気持ちしかなかった。だからオリンピックのときは体も頭の中も疲れていたり、うまく整えて臨むことができなかった」

 数々の成績と長いキャリアを見ても、葛西が日本のトップジャンパーの一人であるのは疑いようがない。にもかかわらず、ジャンプ界ではともかく、世間的な認知という点では、原田雅彦、船木和喜といった選手に比べると、影が薄い感じがあるのは否めない。その原因は、オリンピックの成績にある。

 本人も認めた上で、こう語る。

「(世間の評価に対する不満は)多少ありますね。競技のレベルで言えば、強い国から6人も7人も出てくるワールドカップのほうが高いと思う。でもやっぱり、4年に一度のオリンピックで勝つことが一番評価されると思うんですよ。そういう意味では、原田、船木、斎藤、岡部、みんなが金メダルを持っているのに、自分だけ持っていませんからね。

 ときどき、テレビで長野五輪のジャンプを振り返る映像が流れたりするじゃないですか。観ると本当にむっとしますね。ちくしょうって思うんですよ。その瞬間、悔しいっていう思いが突き刺さるんですよ」

【次ページ】 「絶対金メダルを獲れると思う」──根拠ある自信。

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