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37歳の挑戦・葛西紀明 「あの悔しさが忘れられない」 ~特集:バンクーバーに挑む~ 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byMakoto Hada

posted2009/12/05 08:00

37歳の挑戦・葛西紀明 「あの悔しさが忘れられない」 ~特集:バンクーバーに挑む~<Number Web> photograph by Makoto Hada

「絶対金メダルを獲れると思う」──根拠ある自信。

 ジャンプは理不尽な競技である。雪のない時期には陸上トレーニングやサマージャンプのできる台で毎日飛び続けて、シーズンに備える。いざ大会では、0.何秒のごく短い時間の中で、タイミング、方向、パワー、すべてを完璧に合わせなければいけない。極度の集中と繊細さが要求されるのだ。にもかかわらず、風向きひとつで運、不運は生まれ、結果が左右される。努力は無に帰す。

「本当に怒りのやり場がないですね。選手によっては、スキー板やヘルメットを投げます。僕も、心の中は本当は煮えくり返っていますよ。でもね、(いい風に)いつか当たる、いつか当たるって。そう思いながら、もう何十年も経っちゃいましたけど(笑)」

 と言いつつ、他の代表選手も一目置くほどの厳しいトレーニングを積み重ね、今日まで競技を続けてきたのは、トップジャンパーであるという自負と、それを証明したいという思いからである。

 そのために必要なのは、まだ手にしていないもの――オリンピックの金メダルを手に入れることにほかならない。

 だから、バンクーバー五輪で目指すものもただひとつに絞られる。

「うん、金メダルですね。それも、団体戦よりも個人戦のほうで。やっぱりジャンプは個人競技ですから。絶対金メダルを獲れると思うんですよね。自分の能力を信じているから続けてきたんです」

五輪での金メダルにとどまらない、大いなる目標。

 来年1月に発表される予定の日本代表に名を連ねれば、日本選手では史上初となる6度目の冬季五輪出場となる。来たるべきシーズン開幕へ向けて、葛西は十分な手ごたえを感じている。

 昨シーズンはワールドカップでベスト10内に8度入り、表彰台にも2年ぶりに上がった。今年2月に行なわれたチェコ・リベレツの世界選手権では、個人戦こそ、あまりにも風が悪いという不運に見舞われたが、ラージヒル団体ではトリを飾り、チームの銅メダル獲得に大きく寄与している。

「前はとにかくがむしゃらでした。オリンピックへ向かう調整がうまく行かなかったのもそこに原因があると思う。でもようやく、うまく体調を整えて、リフレッシュもちゃんと入れて臨めるようになったのが昨シーズンあたりです。そういう調整が、やっとうまくなったんじゃないかと感じています。技術的にも、昨シーズンぐらいから良くなってきた。アプローチのポジションとか、滑る重心の位置とか、ほとんど決まってきたんですね。スピードも出るようになった。あとは今、目線にバラつきがあって、そこを固めれば、今度はテイクオフですね。ほんのちょっとの部分なんですが」

 金メダルを獲得すれば、積年の目標を果たすことになる。それが競技人生の集大成となるのだろうか。すると、葛西は笑った。

「今年3月、岡部さんに、僕の持っていた(31歳8カ月の)ワールドカップ最年長優勝の記録を破られたじゃないですか。もう一度記録を塗りかえたいんですね。次の次のシーズンに優勝すれば破れるんです。だから、もっともっと続けていきたい気持ちですね」

 鍛え上げられていることが服の上からでもわかる肉体、精悍な表情を見ていると、40歳を過ぎても、葛西は飛び続けている。たしかにそんな姿が思い浮かんだ。

葛西紀明(かさいのりあき)

1972年6月6日、北海道生まれ。小学3年生でスキーを始める。東海大四高時代から国際大会で活躍し、'92年に19歳で出場したアルベールビル冬季五輪以来、5大会連続出場を果たす。現在所属する土屋ホームでは、選手兼任監督としてチームを指揮する。176cm、59kg

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