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ドラガン・ストイコビッチ 「もっと楽しいサッカーが見たくないか?」 【連載第1回】
text by
中西哲生Tetsuo Nakanishi
photograph byTadayuki Minamoto
posted2009/04/01 23:01
世界を知り、選手としても監督としても日本サッカーを知りつくす。
現在、Jリーグを語るに最もふさわしい人物と言えるだろう。
かつてともにプレーした中西哲生が、ピクシーの本音に迫った。
世界で一番好きなサッカーチームは…
―― 日本サッカーの話をする前に、まず世界のサッカーについて聞きたいと思います。いま好きなチームはどこですか?
「マンチェスター・ユナイテッド(マンU)だね」
―― 理由は?
「スキル、スピード、パフォーマンス、テクニック……彼らは現代サッカーに求められるすべての要素を兼ね備えている。いまの瞬間に限って言えば、マンUはモダンフットボールの最高の例だと思う。ナンバーワンだ」
―― マンUは個々の選手がすぐれた才能を持っていながら、コレクティブ(組織的)にプレーするという点でもすばらしいですね。
「そのとおり。選手一人ひとりすべてに責任が与えられているし、みんながその責任というものを理解してプレーしている。だから好き勝手にプレーする選手なんて一人も見当たらない。誰もが結果のために、そしてマンチェスター・ユナイテッドというチームのためにプレーしている」
―― マンUのようなチームを作るために最も重要なものは何だと思いますか?
「コレクティブ・スピリットだ。たとえばバルセロナのようなチームも、非常にコレクティブなプレーをする。どの選手もとてもフットボール・インテリジェンスが高い。ゲームにおける自分の役割、そして責任というものを完璧に理解している。サッカーそのものを本当によくわかっている。つまり、サッカーIQが高いんだ。だから、ファーガソンもグアルディオラも、チームとしての一体感の重要性といった初歩的な話をするために、時間を無駄使いすることはないはずだ」
戦術的なミスとテクニカルなミス
―― 昨シーズンのことですが、「どんな選手でもミスをする可能性はある」と言ったことがありましたね。
「もちろん。クリスティアーノ・ロナウドだってミスをする」
―― しかし、戦術的なミスに関しては「1回目は許しても2回目は許さない」とも言っていました。
「そこは譲れない。同じような戦術的ミスを犯すということは、選手がインテリジェンスを持っていないということになるからだ。私はテクニック面のミスに関してはしょうがないといつも言っている。この種のミスは、世界トップクラスの選手でも犯すことがある。でも、戦術的なミスを犯すということは、コレクティブにプレーすることに対する意識が低いことを意味する。つまりチーム全体のことを考えていないということなんだ」
―― 選手が戦術的なミスをした場合にはどうするのですか?
「その選手と話をするさ。でもあんまりきつい言い方はしない。それによって選手をつぶしたくはないからね。私はむしろ、相手を励ましてモチベーションを与えるというやり方をする。ただし選手の方は、自分のプレーがチームにとってプラスになっていないことを絶対に理解しなければならない」
―― やさしいんですね。
「選手のメンタリティというものもわかるからね。これはとても大事なポイントだ。選手をつぶしてしまうのは簡単。ベンチに引っ込めたり、サテライトに送ったりしてプレーさせないようにすればいい。でもそれは良いやり方ではない。選手を教育することにならないし、正しい教育方法でもない。選手が監督を信頼しないと、何も始まらない」
―― だからあまり言いすぎない。
「そう。ミスを指摘し続けるようなことはしなくていいと思う。私はつまらない人間にはなりたくない。いつも選手に命令し続けているようなボスにはなりたくない。選手は自分が犯したミスというものを誰よりもよくわかっているものなんだ」
チャンスを与えて励ますのが私のやり方
―― たとえば去年のJリーグで、ある選手がペナルティエリア内で相手を後ろから押し、PKを与えたことがありました。あれは戦術的ミスだと思うのですが、試合後、彼にどんな言葉をかけたのですか?
「『次は気をつけろ、むしろ相手にそのままプレーさせたほうがいい』と言った。ペナルティエリアの中で相手を後ろから追いかけるのは非常に危険だ。ちょっと触っただけでもペナルティになりうる。だから考え方を変えればいい。プレーを続けさせても他のディフェンダーが助けに来てくれる。あるいはゴールキーパーだっている。まだ一巻の終わりというわけではない。だったらPKを与えて確実に得点できるチャンスを与えるよりは、味方に任せた方がはるかにいいというふうにね。ただ、『チームが勝ったんだから心配するな』と、励ましもしたよ。自分がいかなるミスをしたかということを、彼自身が理解していることは分かったから」
―― ミスをした選手を元気付けるのがとても上手だと思います。ミスをした選手をあえて次の試合で使うこともする。
「選手に自信というものを植えつけてやりたいからね。それが自分の流儀なんだ。いかにして選手を育てるか。切り捨ててしまうのは簡単だ。自信を失わせてモチベーションをなくさせてしまうのはとても簡単。むしろポイントは、どうやって選手のモチベーションを回復させて、100%試合に臨める状態で戻ってこさせるか、になる。そのためにはどうすればいいのか。汚い言葉や強い口調で罵ったりするのは得策ではない。チャンスを与えて励ますのが私のやり方なんだ」