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ドラガン・ストイコビッチ 「もっと楽しいサッカーが見たくないか?」 【連載第3回】 

text by

中西哲生

中西哲生Tetsuo Nakanishi

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photograph byTadayuki Minamoto

posted2009/04/03 09:01

ドラガン・ストイコビッチ 「もっと楽しいサッカーが見たくないか?」 【連載第3回】<Number Web> photograph by Tadayuki Minamoto

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「日本人はいいテクニックを持っているし、スピードも持っている」と評価するピクシー。
では、なぜゴールが決められないのか。
自らの現役時代を振り返り、”最後の20m”を語った。

最後の20mには、「完璧な自由」がある

――よく言われますが、日本人が持っているのはどういう種類のスピードでしょう?

「短い距離、言いかえればアジリティだ。これはサッカーにとってとても重要なんだ。サッカーというのは50mの足の速さが重要になる競技ではない。2m、3m、あるいは10mの速さが重要になってくる。2、3mのところで相手に差をつけることができれば、最終的に勝つことができる。これが今日のサッカー、つまりモダンサッカーだ。今のサッカーは非常にスピーディになってきている。速さがなければ、勝つのは難しい。でも日本人は本当にポテンシャルを持っていると思う。いいゲームをするための才能を持っているじゃないか」

――最後の20mのエリアでは、好きなようにプレーしろ。たしかに多くの人が日本人はテクニックを持っているといいますが、そのテクニックを重要な場面で瞬時に使うことができない。

「そう。プレッシャーを感じすぎている。特にアタッキングサード。敵のゴール前、最後の20~30mのエリアで、日本人は十分な自信を持っていないような印象を受ける。最後の20mは本来、『完璧な自由』というものが与えられるエリアなんだ。ボールをキープしてもいい、ターンしてもいい、ドリブルで勝負してもいい。とにかく自分自身の責任でプレーをすれば何をやってもいいんだよ」

――でも、日本人はその自由を、自由として感じることができない。

「私はグランパスの選手に、『最後の20mのエリアでは、自分の好きなようにプレーしろ』といつも言ってる。『これは君のためのスペースだ。シュートでもドリブルでもバックパスでも、そしてジャンプでも(笑)、何でもできる場所だ。ボールを奪われたっていい』ってね。これが自陣のゴールから20mのエリアとなると話は別だ。そこでボールを奪われるのは絶対禁止。失点に直結する。でも、最後の20mならボールを奪われても構わない。ここは自分の創造力をいかして自由にプレーできるスペースなんだ。でも日本人は、自由にプレーするために必要な自信というものを、十分には持っていないと思う」

ゴールの前こそ冷静に。

ドラガン・ストイコビッチ

――あなたがグランパスの現役選手だったころ、僕がアタッキングサードでパスを渡すと、とても冷静にボールをキープしていました。

「それは非常に大事なポイントだ。いま、もっともいい例はイブラヒモビッチだと思う。彼はまず一度止まる。しかし、そうやって彼が止まった時こそ、ディフェンスにとっては一番危険なんだ。次の瞬間には非常に素早く動いて、ゴールを仕留める。現役時代の私も同じだった。だから、最後の20mのエリアで落ち着いていたというナカニシの指摘は正しい。私はそのための方法を知っていた」

――その方法とは?

「まず味方のサポートを待つ。後ろから誰かが上がってきたり、自分のそば、つまりパスを出せるポジションに来てくれるのを待つ」

――選択肢を増やすんですね。

「そう。冷静に止まって、選択肢を増やして、自分にディフェンダーと戦うためのアドバンテージが与えられるのを待つんだ」

――でもそのためには、他の選手がいいフリーランニングをしなければなりません。

「もちろん。ボールを渡して『はい、終わり』じゃあ困る。ボールを渡したら、すぐにランに移って、ディフェンスラインを混乱させてほしい。そこでこっちは初めて本当の選択というものができる。パスをするのか、ドリブルするのかというふうにね。その瞬間、敵のディフェンダーはパニックに陥るんだ」

――ペナルティエリアの中では、特にそうですね。

「ディフェンダーは自分の背後で何が起きているかわからないから、非常に不利な立場に置かれる。そういう立場に追い込むためにも、フォワードには冷静さと辛抱強さがとても重要になる」

――そういう意味でも、ボールをキープできる選手でなければなりません。

「テクニックがなければならない、と同時にクイックでなければならない。玉田(圭司)や杉本(恵太)のようにね。彼らは速いし、突破するのがとてもうまい」

――また、小川佳純選手のように。

「そう、小川のように。小川はいつも非常に落ち着いている。それは状況を理解しているからだ」

フィジカルで負けた――は単なる言い訳。

ドラガン・ストイコビッチ

――サイドの選手もボールを受ける動きが重要になりますね。

「どこでもさ。すべてのポジションだ。ただ、サイドのポジションは特に重要になる。攻撃する時、ほとんどのチームはサイドで局面を打開しなければならない。ピッチの中央には選手がたくさんいるからね。だからこそサイドでボールを受けた選手は非常に落ち着いてプレーしなければならない。冷静にボールをキープしてオーバーラップを待ったり、内側に切れ込んだりする。ディフェンダーにとって、こういう選手をコントロールするのはすごく難しい」

――ディフェンダーは混乱します。

「だから私は左利きの選手を右サイドで、右利きの選手を左サイドに起用するのが好きなんだ」

――グランパスではマギヌンが右サイド、小川が左サイド。

「ふたりともテクニックを持っているから、常に局面を打開できる可能性がある」

――要するに日本人は、頭を使ってプレーしなければならないと。

「そう、フィジカル云々ではない。一生懸命に練習しよう、そうすれば問題は解決するだろう、というような考え方にはまったく賛成できない。ハードワークやフィジカルはある面ではたしかに大事だが、サッカーではそれだけじゃない」

――でもみんないつも、最後にはフィジカルで負けたという言い方をします。

「それは正しいとは思わない。単なる言い訳だろう」

 

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