オフサイド・トリップBACK NUMBER
時代後れのイングランド・サッカー。
時計の針を進めるのはモウリーニョ?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byLiverpool FC via Getty Images
posted2011/04/04 10:30
“レッド・ドラゴン”の異名をとるリバプールの大黒柱スティーブン・ジェラード。南アW杯では、大会直前にキャプテンのリオ・フォーディナンドが負傷し、代わりにキャプテンマークを付けて戦ってもいる
ファーガソンやベンゲルがもたらしたパスサッカーの概念。
むろんプレミア発足以降、戦術やテクニックの顕著な進歩がなかったわけではない。
1980~90年代にマンUに名を連ねていた元ウェールズ代表のDF、クレイトン・ブラックモアは紅茶をすすりながら「ファーガソン監督が、イギリスに新しいパスサッカーの概念を持ち込んだんだ」と力説し、アーセナルのファン歴40年だというロンドン在住の男性は、ベンゲルが披露しているサッカーを魔法のようだと絶賛した。
「正直な話、わしに言わせれば『一体こりゃなんだ、同じサッカーか?』って感じだ。自分が'70年代とか'80年代に見てきたのは、ロングボールを勢いよく蹴り込んで、選手がひたすら突っ込んでいくだけの代物だったからね。席がスタジアムの真ん中にあるから、ひどい時には右のゴールを見て左のゴールを見てという繰り返しで、目の前──中盤でぜんぜんボールが見えないことさえあった(笑)」
南アW杯の惨敗でイングランド・サッカーの前時代性が露呈した。
戦術のレベルアップは、モウリーニョとベニテスの監督就任によって特に進んだが、二人を失ったイングランドは再び下り坂に向かってしまう。その間接的な結果が2008-2009シーズンのCL決勝(マンU完敗)であり、昨シーズンのCL2回戦(ベスト8全滅)であり、ひいては南アW杯の惨敗だった。
「チームのラインナップ(並び方)を見た瞬間に、これは負けるなってわかったよ。優秀なチームに4-4-2で対抗していく時代は終わりつつある。僕は大会が始まった時から、あのフォーメーションは心配だって言ってきたんだ」
ドイツ戦の後にオーウェンが出したコメントはまだ優しい。ベッケンバウアーに至っては、初戦でアメリカと引き分けた時から容赦なかった。
「イングランドがやっていることは、(近代的な)サッカーとは関係ないような印象を受けた。昔のキックアンドラッシュの時代に戻ったようだ」
イングランドのサッカーが停滞気味だという認識は、モウリーニョも抱いている。約1週間前、モウリーニョはイギリスのラジオ番組で、古巣の現状をきわめて冷静に分析してみせた。
「プレミアのチームはあまりにもポイントを落としすぎている。マンUは長い間アウェーで勝てなかったし、チェルシーも試合を続けて落としている。しかもこのような状況なのに、マンCとアーセナルは追いつけない。だから自分に言わせれば(プレミアの)トップチームは少しだけ力が落ちたように見える」
荒削りなトッテナムが緻密なレアルを苦しめる?
かくいうモウリーニョにも、CLでは思わぬ落とし穴に落ちる危険性がある。
彼が率いるレアル・マドリーが準々決勝で対戦するのは、CL初出場のトッテナム。チェルシーやマンU、アーセナルやリバプールといったチームに比べれば、荒削りな印象が否めない。
大方の予想はレアル有利だろうが、トッテナムの試合はよく言えばスリリング、悪く言えば大味なものが多いだけに、意外にやりにくいのではないだろうか。