オフサイド・トリップBACK NUMBER
時代後れのイングランド・サッカー。
時計の針を進めるのはモウリーニョ?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byLiverpool FC via Getty Images
posted2011/04/04 10:30
“レッド・ドラゴン”の異名をとるリバプールの大黒柱スティーブン・ジェラード。南アW杯では、大会直前にキャプテンのリオ・フォーディナンドが負傷し、代わりにキャプテンマークを付けて戦ってもいる
――監督がウリエからベニテスになったことで、リバプールは変わったんでしょうか?
「ああ。戦術はもちろん、練習にしろミーティングのやりかたにしろ、小さなところで言ったらストレッチの仕方なんかもずいぶん変わったよ」
――具体的には、どんなふうに変わりました?
(急に眉をしかめて)「それはずいぶん難しい質問だなぁ」
――いや、ストレッチでもミーティングでも、ちょっとした例でいいんですけど。
(さらに表情を曇らせて)「ん……と言われても……」
――じゃあ、細かいところはさておき、ベニテスが来てからとにかくチームは変わったと?
(ぱっと表情が明るくなって)「そうそう。そんな感じだよ」
今から5年前、僕がジェラードに独占インタビューをした際は、実はこんなやりとりがあった。ごくごく普通の質問、しかも自分が得意げに口にしていたテーマのQ&Aで、あれほど答えに詰まるとは思わなかった。
だがジェラードらしいといえば、いかにもジェラードらしい。ジェラードは頭よりも心(ハート)、戦術や計算よりも本能や一瞬の閃きでプレーする選手だ。饒舌に質問に答えてみせる姿はしっくりこない。ならば返答に困って頭を掻いている方がはるかに似合う。
僕はこの取材を通じてジェラードがもっと好きになった。ルックスも含め、以前にも増してジェラードから「イングランド・サッカー」を感じるようになったと言ってもいい。
豪快なイングランド・サッカーが抱える“諸刃の剣”。
ジェラードによれば、イングランド・サッカーとは「男らしくがんがんいくスタイル。ペースが速く、すごくエキサイティングなサッカー」だということになる。
しかしこのスタイルは諸刃の剣とみなされてきた。ダイナミックでスピーディーな展開は、緻密な組み立てやパス回しがないことの裏返し。パワフルなミドルシュートは細かなテクニックと引き換えに手に入れたのだと主張する人々は、(ヨーロッパ)の大陸側にはざらにいるし、イングランド人のジャーナリストも多かれ少なかれ認めている。僕自身、サッカーの取材でイギリスを訪れた際には、豪快に笑いながら次のように断言するチーム関係者に出会ったこともあった。
「日本人はやれ4-4-2だとか4-3-3だとか混み入った話をするのが好きらしいがサッカーなんてそんなややこしいものじゃない。監督やコーチの仕事だって単純だよ。まずは練習場に行って活きのいい選手を11人探し出してくる。あとは連中のケツを叩きながら『さぁ小僧ども、相手に一泡吹かせてこい』って送り出すだけさ」