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<パ・リーグ新世代監督が語る3つのリーダー論> 渡辺久信×秋山幸二×西村徳文 「革新をもたらした若き指揮官の言葉力」
text by
永谷脩Osamu Nagatani
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/03/09 06:00
「どんな些細なことでも自分の言葉で語っていく」(渡辺)
そのためだろうか。'08年、日本一になった時も「短期決戦で外国人の抑えは信用するな」という球界の常識を意に介さずグラマンを積極的に起用した。「KILL OR BE KILLED(やるか、やられるか)」と言いながら肩を叩いてグラマンをマウンドに送り出していたという。
「外国人だからと特別視したくなかった」という強い思いで優勝を決めるマウンドを託した渡辺。その信念は揺らぐことなく、昨年のCS初戦も迷いなくシコースキーを投入した。しかし結果はまさかの3連打4失点。延長戦の末に星を落とし、続く第2戦にも敗れ、西武はCS第1ステージで姿を消した。渡辺はロッテに敗れた後、これまでを振り返ってこう話した。
「今思うと二軍監督を経験してわかったことがある。わかっているだろう、では通用しない。言葉にして気持ちで相手に伝えるか、理詰めで相手に伝えるのか、どちらかを選択しないといけない。就任1年目は、恥も外聞もなく『やらないで失敗するなら、やって失敗したほうが次につながる』という思いで選手に伝えていた。それを思い出さなければ」
新燃岳の火山灰が降るキャンプ地・宮崎県南郷。就任4年目を迎えた渡辺は、初心に戻ってどんな些細なことでも自分の言葉で語っていく、と今季の抱負を語ってくれた。
秋山監督の現役時代を知る選手たちが支えるソフトバンク。
ソフトバンクの7年ぶりのリーグ制覇は、大逆転劇だった。残り6試合で3.5ゲーム差をひっくり返したのである。
監督就任3年目の秋山幸二は寡黙な指揮官だ。チームを率いるにあたり言葉で伝えるのではなく、自ら率先して行動で示したほうが良いと決めた。それは現役時代も同じだった。
'99年、王ホークス初優勝の時、松坂大輔から顔面に死球を受け骨折。それでも監督に言われるまま、主将として大阪遠征に帯同し、背中でチームをまとめたことがあった。当時を知るベテランが現主将の小久保裕紀であり、松中信彦である。秋山の背中を見ていた選手が、今のソフトバンクを支えているのだ。
西武のマジックが「4」になり、迎えた9月18日、本拠地での西武3連戦。第1戦、3点差の6回裏、1死二、三塁の場面で秋山は珍しく松中を呼び寄せた。2球続けて内角球が来ると予想した秋山は「なめられてるな。もう1球来るぞ」。それに反応し待ってましたとばかりに打った同点スリーラン。試合後、秋山は「状況が分かっているベテランには言いたくなかったが……」と少しテレていた。三冠王を獲った男に対して二軍行きを命じたこともある指揮官の「なめられてるな」のひと言で、松中の意地が爆発した瞬間だった。
延長戦のイヤなムードを払拭したのも、やはり秋山の背中を見て野球人生を歩んできた小久保の決勝ホームランだった。この試合、3年ぶりとなるバントも決めている。まさになりふり構わず掴んだ初戦の勝利だった。実は3連戦の前、秋山は小久保に声をかけている。