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<パ・リーグ新世代監督が語る3つのリーダー論> 渡辺久信×秋山幸二×西村徳文 「革新をもたらした若き指揮官の言葉力」
text by
永谷脩Osamu Nagatani
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/03/09 06:00
寡黙な男・秋山が土壇場でベテランたちにかけた言葉。
「主将であるお前を4番から外さない」
小久保を発奮させたのはこのひと言ではなかっただろうか。打率2割7分9厘、ホームラン15本は4番として優れた数字ではない。首を痛め左肩痛に悩まされ、一時は引退まで考えた4番打者。その男に「4番を外さない」。このひと言は「やれることを全部やる」という気持ちにさせるには十分な言葉だった。
ソフトバンクのマジックが「2」となって迎えた9月25日の日ハム戦。先発を任されたのは杉内俊哉。4試合勝ち星がなく前回登板の西武戦でもふがいない投球で降板していた。調子がいいとは言い難い。そのうえ相手ピッチャーは難攻不落のダルビッシュ有。不利が予想される戦いを前に秋山は、「ゲタを預ける」と高山郁夫コーチを通じて杉内に伝えたのだった。
「登板日2日前に投げ込みを行なったり、やるべきことを全部やっているという報告をうけていたから。もう杉内に任せるしかないと思った」
その秋山の「意気」に答えた杉内。ダルビッシュを相手に1対0の完封勝利を挙げた。
ソフトバンクは攝津正らを擁し、12球団随一の中継ぎ、抑え陣を誇る。しかし秋山は「任せると言ったのだから杉内に任せるしかない」と大事な試合の前に覚悟を決めたのだった。
試合後、杉内はインタビューで人目をはばからず涙を見せていた。それは責任を果たせた安堵の涙だったのかもしれない。背中でチームを引っ張ってきた秋山が土壇場で掛けたベテラン達への言葉。忘れかけていた勝利への執念に火をつけたのはその言葉だった。
CSの敗因は「言わなくてもわかってくれる」と考えたこと!?
キャンプ地がある宮崎・生目(いきめ)の杜。センターポールで翻るリーグ優勝のチャンピオンフラッグを見て笑いながら秋山は言った。「火山灰が降ってきて、二度もスタジャンを洗濯に出すことになった」。そして少し間を置いて付け加えた、「あの旗じゃ、駄目なんだよ」。
日本シリーズまであと1勝に迫りながら勝ち越せなかったのは「長い間、一緒に戦ってきているから、こちらが余計なことを言わなくてもわかってくれる」と考え、CSでは選手たちにあえて声をかけなかった点にあるのではないか。CSでは小久保が22打数4安打、松中は18打数3安打、杉内は2敗とロッテに抑え込まれている。秋山のかけた発奮の言葉は再度の確認が必要だったのである。