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お花見シーズン直前ボタリング。
ブームの「墓マイラー」をやってみた。 

text by

疋田智

疋田智Satoshi Hikita

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photograph bySatoshi Hikita

posted2011/02/26 08:00

お花見シーズン直前ボタリング。ブームの「墓マイラー」をやってみた。<Number Web> photograph by Satoshi Hikita

墓地は健康の源、ご近所の散歩コース。

 さて、次の墓地は雑司ヶ谷霊園。実は染井霊園から非常に近い。地下鉄副都心線の雑司が谷駅近く、というより、一番近い最寄り駅は、チンチン電車・都電荒川線の方の、雑司ヶ谷駅だ。意外に池袋に近い。ちょっと迷った。実は染井も雑司ヶ谷も初めてだ。

 すぐ近くの鬼子母神周辺もそうなんだけど、なんだかのどかでね。低層の住宅や古い店舗が並び、道路では子供がキャッチボールをしていたりする。

 なんだなんだこの昭和感は。こんなに都心なのに。都心にぽつんと残された、未開拓地域という気すらするぞ。と、そんなところに雑司ヶ谷霊園はあるわけだ。

 線香の匂いが絶えず漂っている。やはり周辺環境(住宅密集地)からか、散歩する人が非常に多いのがこの墓地の特徴だ。

 人捜し顔、というより、墓捜し顔をしていたら、イヌの散歩中のオバちゃんが話しかけてくれた。

「あそこの霊園管理事務所に行けば、墓地の地図パンフレット、もらえるわよ」

 あ、そうですか。

「入り口を入って、左側にあるから、職員さんが忙しいみたいだったら、黙ってもらってきても構わないみたい。ほら、イラスト入りで、分かりやすい地図よ」

 オバちゃん、少々くたびれたパンフを見せてくれる。なるほど、ほんとだ。

漱石先生のお墓は立派ぞなもし。

 というわけで、事務所に行き、私もパンフレットを戴いてきた。ふーむ、さすがに雑司ヶ谷、ビッグネームが多いなぁ。で、私にとっては何と言っても漱石先生なのだ。これはもう行ってみなくては……、ここでも墓石には番地がふってある。なになに、1の14号、1側3番……。

 おお、これか。

 夏目漱石先生の墓は実に立派だ。石が分厚い。漱石先生、私にとっては、教科書に出てくる様々な偉人たちの中で、最も尊敬する、というのか、大好きな人物なんだけど(実は四半世紀前、私が大学を受験する際、一番考えていたのは「漱石先生の後輩になるぞ」だったりした)、考えてみれば、一度も墓参りに来たことがなかった。ということで頭を垂れる。

 墓石に刻まれた「夏目」の書体が、なんだか「こころ」の扉や「猫」の表紙に通じるものがあって、うわ、いいな、漱石っぽい。萌え、である。

 冬の日が少し傾き、周囲の色が黄色く染まる。自転車から降りてしばらくすると汗が冷えて、少々肌寒い。

 地図を頼りに歩いていたら、とある立派な墓石にめぐりあった。

 ちょっと心がシンとしてしまう。東條家の墓、もちろんあの東條英機の東條家である。

 手入れの行き届いた、立派な墓石に、堂々たる揮毫。そばに石製の「御名刺入れ」があるところが、あの戦争というものが、まだ生きた歴史であることを物語っている。

「日本近現代史、最大の悪役」とされがちな人物は、今ここに「サンシャイン60」から見下ろされながら眠っている。

 サンシャイン60。この巨大ビルが建っている敷地は、この連載でも一度触れたけど、かつての巣鴨プリズン、つまり東條英機が絞首刑となった場所の跡地なのである。

【雑司ヶ谷霊園に葬られたおもな著名人】
▼泉鏡花▼いずみたく▼小栗忠順▼金田一京助▼小泉八雲▼サトウハチロー▼島村抱月▼ジョン万次郎▼竹久夢二▼東郷青児▼東條英機▼永井荷風▼夏目漱石▼古川緑波▼ほか

【次ページ】 最後の目的地、多磨霊園を目指せ。

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