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「寿命が縮まった気がするんです」名人・藤井聡太や永瀬拓矢だけでない死闘…順位戦の過酷な現実を高見泰地が語る「永瀬さんのおかげですね」
posted2025/04/20 06:00

インタビューに応じてくれた高見泰地七段(左)。永瀬拓矢九段らとの研究会など、過酷な戦いを強いられる順位戦に向けての準備を明かしてくれた
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Shintaro Okawa/Nanae Suzuki
5勝7敗で残留――。
3月に終わったばかりの第83期B級1組順位戦を戦った高見泰地七段の成績である。文字にすれば10文字程度で総括できてしまうが、そんな簡単なものではもちろんない。
寿命が縮まった気がするんです
期待、不安、歓喜、失望、絶望、安堵、諦念などあらゆる感情にまみれた1年だった。高見の話を聞いていて私は、何色もの絵の具が大量にぶちまけられたキャンバスを思い浮かべていた。昇級争いには絡めなかったが、レジェンドの羽生善治九段が降級するほど激烈な競争が繰り広げられたのだ。そして高見が初めて経験するB級1組は他のクラスと比べて独特なシステムがあり、そこにも苦労させられた。また精神面でも大きな乱高下があった。
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「寿命が縮まった気がするんです」
高見は静かに述懐する。
大げさではない。私は高見が初タイトルを獲得した2018年の叡王戦で当時主催だったドワンゴの観戦記を務めたことが縁となり、彼と交流を持つようになった。プライベートでも話をすることが増え、対局で奮闘し苦悩する高見の姿を比較的、近くで見てきた。相談——というよりは感情の吐露に近かった——を受けたこともあった。強い緊張感とストレスを常に抱えていた1年で、ある時期にひどく苦しんでいたことは間違いない。
高見はかろうじて残留を決めた。1年にもわたるB級1組の戦いをどう乗り切ったのか。改めて話を聞き、どうしても文章に残したかった。凄まじい強度の話を聞ける予感があったからだ。高見は快諾してくれ、桜の咲き始めた年度末にじっくりと向き合った。想像は間違っていなかった。
順位戦開幕前、高見はどんな目標を設定したのか
街の緑が濃くなり始めると、順位戦に参加する棋士たちに日本将棋連盟から封書が届く。そこには自分が所属する順位戦のクラスの表が入っている。A級とB級1組は総当たりなので他のクラスほど対戦相手が気になるわけではない。どの時期に誰と指すことになるのか、どの対局が遠征になるかなどを確認する。
高見はその表を自宅のデスクの前に貼った。「順位戦への意識を高めるためです」と語る。パソコンで研究しているとその表が目に入り、気がつくと順位戦について考え込むことがしばしばあったという。
開幕前はどこに目標を置き、どれくらいの星取りをイメージしていたのか。