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「寿命が縮まった気がするんです」名人・藤井聡太や永瀬拓矢だけでない死闘…順位戦の過酷な現実を高見泰地が語る「永瀬さんのおかげですね」
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa/Nanae Suzuki
posted2025/04/20 06:00

インタビューに応じてくれた高見泰地七段(左)。永瀬拓矢九段らとの研究会など、過酷な戦いを強いられる順位戦に向けての準備を明かしてくれた
「ぶっちゃけ4勝8敗から8勝4敗までのどれもあるかなと思っていました。でも自分は初参加で順位が悪いから、8勝4敗じゃ目標とするA級には上がれない。昇級ラインの9勝3敗を取るためには、全てを絞り出さなきゃいけません。やっぱりみんな本当に強いんです。実力伯仲で正直、絶対に勝てない相手は1人もいないですよ。でも絶対に勝てる相手も1人もいない。期待も込めて7勝5敗、8勝4敗以上の成績を取りたいという気持ちを抱いていました」
永瀬さんのおかげですね…研究会の誘い
もちろん気持ちだけで好成績を挙げられるような甘い世界ではない。具体的にどんな準備をして臨んだのか。
「B1は総当たりなので組み合わせのアヤはなくて、実力がそのまま結果として出ます。終わった時に後悔だけはしたくなくて、開幕2カ月前の4月から将棋に向き合う時間を増やしました。自分の生活で将棋が占める割合って、これまではどんなに頑張っても60~65%ぐらいだったと思うんです。でもそれを80%~85%まで高めるように努力しました」
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ちょうど2024年の春頃から、永瀬拓矢九段から研究会の誘いが頻繁に来るようになっていた。永瀬は高見の初タイトルである叡王を奪った相手だが、当時からすでに研究会を行っていたという。コロナ禍に入って一度消滅し、23年頃からまた復活していた。
「4人の研究会なので、1日に他の3人と1局ずつ指します。次回は先後を入れ替えるので毎回、前回の棋譜を思い出しながら、3局分の作戦を用意していきます。先後がわからない公式戦でも2局分の準備なのに、それ以上の準備をする研究会が月に何度もあるんです。公式戦さながらの気持ちで臨んでいます。いろいろな方に教わっていますが、将棋に取り組む時間が増えたのは永瀬さんのおかげですね」
永瀬研…代打を出すとその人が強くなるから(笑)
最高のスタートだった。
6月20日のB級1組開幕戦で糸谷哲郎八段に勝利し、7月11日に行われた2回戦で山崎隆之九段から白星を挙げた。連勝だ。
「嬉しかったですね。自分が全く通用しないことはないんだなって改めて思えましたし。昇級を意識ですか? ないです。順位戦の厳しさはよく知ってるので、気の緩みみたいなものは全くなかったです」
そう言って高見は軽く手を振った。全10局のB級2組ならまだしも、B級1組は全12局だ。2勝では喜ぶには早すぎる。