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甲子園の風BACK NUMBER
「150キロはすごいけど…」なぜ “軟投派”エースたちはセンバツで活躍できた?「腕の振りがほとんど同じ」「コントロールとキレで勝負できる」
text by

沢井史Fumi Sawai
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Hideki Sugiyama
posted2025/04/05 06:00

センバツで好投した浦和実業の石戸颯汰と智弁和歌山の渡邉颯人。いずれも球速は150キロに満たないが、強力打線を手玉にとった
右足を高く上げ、上半身をくの字にかがみ込み、左腕を振り下ろす。
斬新と言うのか、ダイナミックと言うのか。この独特のフォームで打者を幻惑し、スローカーブやスライダー、カットボールなども駆使する。準決勝で智弁和歌山に敗れるまでは18イニング連続無失点と圧巻のピッチングを披露した。
ちなみにストレートの最速は130キロで、アベレージは125キロ前後なのだという。
「独特のフォームでタイミングが取りづらい」
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初戦で対戦した滋賀学園の山口達也監督は、石戸についてこんな話をしていた。
「石戸君の独特のフォームでタイミングが取りづらかったです。チェンジアップと真っすぐの腕の振りがほとんど同じで、元阪急の星野(伸之)投手みたいで。ウチとしては完全に打ちあぐねました。あれだけ丁寧にコントロール良く投げられるのは捕手(野本大智)のリードも大きいでしょう。ウチは……結局フライアウトが16個でしたっけ? これでは点は取れません」
滋賀学園のある打者は「スピードがそこまでなくても手元でピュッと来る感じ」と石戸の打ちづらさについて述べていた。
石戸がこのフォームにたどり着いたのも「自分は身体が小さいので、力では抑えられない」と試行錯誤を重ねた結果なのだという。入学時からこの“変則ぶり”で経験を重ね、昨秋は埼玉大会の準々決勝で浦和学院を2安打完封するなど結果も残し、今春のセンバツ初出場。さらに大舞台でもその輝きをひときわ強く放っていた。
速球はなくても、自分にできる武器を磨いて勝負する。
石戸のピッチングスタイルはまさにその賜物でもあった。「投手はコントロール」ともよく言うが、この春、そのコントロールの良さを十分に見せつけたのが渡邉颯人(智弁和歌山)だったのではないか。