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「試合前に骨折していた」武尊の“衝撃KO負け”にまさかの新事実「それでもロッタン勝利の価値は揺るがない」本人は言い訳せず「全てが自分の実力」
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布施鋼治Koji Fuse
photograph byONE Championship Susumu Nagao
posted2025/03/26 17:02

1ラウンド1分20秒でロッタン・ジットムアンノンにKO負けを喫した武尊。試合後、同門の野杁正明が驚きの事実を明かした
「武尊は試合前に骨折していた」野杁正明の告白
決戦2日後、ジムメイトである野杁の口から意外な事実が打ち明けられた。試合2週間前に武尊は助骨と胸骨を骨折。呼吸をすることすらままならない状態だったというのだ。
振り返ってみれば第1ラウンド開始直前、リング中央でロッタンと対峙したときの武尊の視線からは心の揺らぎを感じた。やはりコンディションに不安があったのだろうか。対照的にロッタンは決戦6日前に行なわれた記者会見時から調子の良さをアピールしていた。最大の懸念材料だった減量がうまくいっていたのだ。
武尊戦を迎えるにあたり、ロッタンは専属の栄養士を雇い、食事を徹底的にコントロールするなど、過去2回も計量オーバーで試合を中止にしていた者とは思えぬほど細心の注意を払いながらこの一戦に臨んでいた。
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今回帯同した同じキックボクサーで新妻のアイーダは妊娠中。生まれてくる子のために、頑張って稼がなければならない理由もあった。さらにアイーダは16人兄弟(おまけに、その大半はファイター!)で敬虔なイスラム教徒。アイーダ家の影響を受けたロッタンも改宗し、今回も入場時にはターバンを巻いていた。
かつてプライベートはお世辞にも真面目とはいえなかったロッタンだが、毎日アラーの神に祈りを捧げることで精神的にも落ち着いてきたのだろうか。果たして、この日リングに上がったときのロッタンは、かつて那須川天心と闘ったときのような野性味あふれる目をしていた。鋭い眼差しを見た瞬間、「今日のロッタンは一味違う」と感じたが、その通りの結果になった。
もうひとつロッタンの勝因を挙げるとするならば、タイ人同士の“絆”だろう。個人競技とはいえ、世界の枠に多数のタイ人が組み込まれたら、同胞として自然と連帯意識が芽生える。前述したタワンチャイ、あるいはこの日がONEデビューとなった吉成名高に3ラウンドKOで敗れたラック・エラワンがキャンバスに大の字になったのを目の当たりにして、兜の緒を締めたことは想像に難くない。