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武尊“早すぎた1分20秒KO負け”はなぜ起きたのか?「先のことは考えてない」試合後の本音… SNSでは「限界論」も、本当に考えるべきキャリアの本質
posted2025/03/24 17:24

ロッタンの左フックを被弾しダウンした武尊。カウントアウトとなった瞬間
text by

橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
ONE Championship Susumu Nagao
「武尊、やめないでくれ!」
バックステージへと引き上げていく武尊に、ファンの悲痛な声が降り注いだ。
3月23日、さいたまスーパーアリーナで開催された『ONE 172』。シンガポールを拠点とするアジア最大級の格闘技イベントONE Championshipの日本大会だ。武尊はメインイベントでタイのロッタン・ジットムアンノンと対戦し、1ラウンド1分20秒でKO負けを喫した。
完全燃焼もできなかった“80秒”
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2022年、那須川天心との世紀の一戦に敗れた武尊が新たな目標に掲げたのがロッタン戦だった。那須川戦後のインタビューでも、筆者に「闘いたい相手がいるんです」と語っていた。
ムエタイの中でも頭抜けたハードヒッターにして、その打たれ強さから“アイアンマン”とも呼ばれるロッタン。那須川と対戦し、延長ラウンドにもつれる大接戦を展開したこともある。判定で勝ったのは那須川だったが、ロッタンを支持する者もいた。
だからこそ武尊も闘いたかったのだ。那須川がギリギリの判定勝利だった強豪に、ノックアウトで勝つことに意味があった。「だから本当は自分のほうが那須川より強い」と言いたいのではない。ただ自分の納得のため、ケジメのために拳を交えたかった。
この男となら世界最高の殴り合いができるという思いもあった。新人時代から真っ向勝負の打ち合いで勝ってきた武尊だが、ロッタンとならそれまで以上に「頭のネジを外して」、リスクを考えずに闘えるはずだ。それが楽しみで仕方なかった。
そんな試合が、80秒で終わってしまった。勝ち負けとは別に打ち合いを楽しむこと、完全燃焼することさえできなかった。それが格闘技だと言えばそれまでだが、あまりにも切ない。
“失神KO”ではなかったが…武尊が考えていたこと
結果として、武尊はロッタンの左フックを2発被弾して倒れ、KO負けとなった。過去唯一のTKO負けはダウンからの負傷ストップだったから、初めて“思い切りぶっ飛ばされた”ということになる。