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「イップスはこういうことか」“21歳ロッテ退団”5年後に最速151キロ…慶大大学院生・島孝明は転身で何を学んだか「トライアウトの感覚が一番…」 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2025/01/19 11:05

「イップスはこういうことか」“21歳ロッテ退団”5年後に最速151キロ…慶大大学院生・島孝明は転身で何を学んだか「トライアウトの感覚が一番…」<Number Web> photograph by Kou Hiroo

2024年のトライアウトで最速151キロをマークした島孝明。大学と大学院に通う中で、自らの投球フォームを作り上げていた

「最後は投げられないままに退団したので、もう一度投げられるところを見せたいという気持ちがありました。でも、トライアウトを受けるなら冷やかしで投げるわけにもいかないのでトレーニングの頻度を上げました」

 10月頃の球速は「130km/h中盤ぐらい」だったそうだ。島はトライアウト後の囲み取材で「上体と下肢の捻転差を活かした」と話していたが——投球フォームでいうと、速い球を投げるためには、「骨盤と上半身を分離させないといけない」という。

 足がついたときに骨盤が捕手の方を向いていても、上半身はまだサードベースの方を向いている。トレーニングではそのフォームチェックを繰り返した。さらに足をついたときに、腕の高さが肩付近まで上がっているかもチェックした。そのポイントに気づいたのは、大学院での学びがあったからこそだった。

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「速いボールを投げるためのメカニクスは、研究で明らかになっています。下半身から生み出したエネルギーを効率よくボールに伝えるための体の動かし方なんです」

本格的な練習から2カ月足らずで151kmに

 その結果、本格的に練習し始めてわずか2カ月足らずで、トライアウトで最速151km/hを記録したのだった。とはいえこの球速は、本人も驚きの出来事だったのだという。

「トライアウトを受ける前に計測した時は、140km/hくらいしか出ていなかったんです。でも、ZOZOマリンのマウンドに上がってから……」

 トライアウトがあったZOZOマリンスタジアムは、ロッテの本拠地である。それとともに、島が夏の選手権大会千葉予選で奮闘した時の舞台。思い出深いマウンドでもあったのだ。

「景色はそんなに変わらなかったんですけど、やっぱりギャラリーがいて、人前でまたプレーするっていうのがすごく新鮮で結構興奮していました」

 マウンドに上がっての投球練習、初球で145km/hが出た瞬間「あれっ」と思ったという。

「そして、本番で151km/hが出たんです」

あの時の感覚が一番良かったかなって

 島の登板は最後の最後、大トリだったが、この日の投手では元楽天の清宮虎多朗(のちに日本ハムと育成契約)の154km/hに次ぐ球速が出た。

「NPBから声がかかったら考えようと思ったけど、かからなかったですね(笑)」

 こう冗談めかしつつも、島はZOZOマリンのマウンドに立った感覚をこう振り返る。

「これまで投げた中で、あのときの感覚が一番良かったかなって思いますね。もちろん球速も出たっていうのもあったと思うんですけど、気持ちの面でも一番良かったし、プレッシャーも感じませんでしたし。当然、いいボールを投げたいという思いはあったんですけど。一旦野球の現場から離れていろいろな経験をして、改めて投げたことで、精神的に何か解放されたという感覚はありました」

 苦しい歳月を経て、ようやく納得のいく投球ができたのだった。

【次ページ】 プロ野球選手会事務局長も「島はどう?」

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