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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「イップスはこういうことか」“21歳ロッテ退団”5年後に最速151キロ…慶大大学院生・島孝明は転身で何を学んだか「トライアウトの感覚が一番…」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2025/01/19 11:05
2024年のトライアウトで最速151キロをマークした島孝明。大学と大学院に通う中で、自らの投球フォームを作り上げていた
「自分の体が自由に動かなくなる心理的な抑圧は、学問的に説明がつくのだな、自分のイップスはこういうことだったのだな、とわかってきましたね」
スポーツ心理学だけでない、バイオメカニクスの分野では実際にモーションキャプチャーを使って動きを解析して、バッティングやピッチング両方を評価、研究した。また野球に限らず、ジャンプの動作を計測したともいう。
教員免許を取り、慶大大学院へ
そんな國學院大學には、日本を代表する野球バイオメカニクスの専門家、神事努氏が准教授として勤務していた。「入学当時は全然知らなくて、こういう先生がおられるんだ」と島は語るが、入学後の大きな出会いの1つとなった。
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「神事先生は、割と学生に近いというか、ノリの良い先生でした。同じ野球出身ということもあって、話もしやすくて、楽しかったですね」
神事氏は大学で教える傍ら千葉県市川市のトレーニング施設「ネクストベース」の上席研究員を務めている。同施設にも何回か足を運び、最先端のバイオメカニクスについて学んだことも、島にとって大きな蓄積となった。
4年間の学びを経て、中高保健体育の教員免許も取得した島は、2024年4月から慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に進んだ。神事氏にも相談をして、慶應義塾大学大学院でスポーツバイオメカニクスを研究する仰木裕嗣教授の研究室に入ることにした。
「今は力学の分野をひたすらやっていて、力がどういう風に働いているかを調べています。あとはプログラミングで実際の計算式を書いたり、データ処理をしています」
自ら実験台に…トライアウトを受けてもいいのでは
何より、先ほども触れた通り――島自身も投げられるようになったことで、できることが増えた。しばしば自らが「実験台」になったという。
「機器をつけて投げたりしているんです。人の実験を手伝っていく中で、春先から、結構ボールも投げられるようになって、慶応湘南キャンパスの野球部を相手に投げていました」
ウェイトなど本格的にトレーニングを始めたのは9月頃のこと。ただそれも「あくまで研究のため」だった。そこから心境が徐々に変わっていったのが、1カ月後の10月頃だった。ボールがある程度投げられるようになり、2024年は最後だと言われていた、トライアウトを受けてみてもいいのでは——との思いがよぎったという。