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「絶対に黙っていてください」隠した脱毛症…理不尽な指導に苦しんだ元バレー日本代表・益子直美が「監督が怒ってはいけない大会」にたどり着いた理由
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byShiro Miyake
posted2025/01/11 11:00
自身が学生時代に悩んだ経験から、現在は『監督が怒ってはいけない大会』の活動を行う益子直美さん
益子自身が経験した“苦しい体験”から生まれたアイデア
では、どうすれば子供たちが楽しめるのだろうか。益子さんの頭に真っ先に浮かんだのが「監督が怒らない」というルールだった。なぜなら益子さん自身が中学、高校と怒鳴られ、ときにはビンタをされながらバレーボールを続けてきたという苦い体験があったからだ。
ただし、大会のコンセプトについては口に出すまでには時間がかかった。大会前日、打ち合わせのためにプログラムを見た益子さんは、その内容を見て言い出す勇気を得る。
「大会は2日間だったんですけど1日目の午前中はほぼ遊びで、試合をやらない。これは……もしかしたら言っても大丈夫かもしれないと思って『実は子供たちが楽しめるように、監督が怒ってはいけないルールにしたい』と言ってみたんです。そうしたら『いいですね』と賛同してくれて」
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すでに50チームが大会のために集まっていた。大会当日、「実は監督が怒ってはいけないというルールで行います」と発表すると、指導者たちは戸惑いの表情を浮かべたが、子供たちは大喜びだったと振り返る。どれだけ求められた趣旨だったかは子供たちの喜ぶ姿が物語っていた。
2年目の大会にも多くの小学校チームが集まり、キャンセル待ちが出るほどの人気となった。
「お世話になった監督を否定するのか?」200通の批判
それでも、『監督が怒ってはいけない大会』をスタートして3年目までは、周囲の関係者には言えなかったと振り返る。
「自分の中で、やっぱりお世話になった監督とかコーチに失礼というか、裏切ってしまうみたいな、彼らを否定するみたいな感覚があってなかなか言い出せませんでした。そして 3年目ですかね、初めて取材が来て大会名とコンセプトを公にしたんです。それがまぁ、反響が大きくて」
益子さんのSNSにはおよそ200通もの批判的なコメントが届いた。
「お前もそうやって育ってきたんだろう?」
「お世話になった監督を否定するのか?」
「恩を仇で返すのか?」
中には「益子がそんなことだから日本のバレーボールはオリンピックでメダルが取れないんだ」という、言いがかりとしか思えない内容もあった。