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羽生善治いわく「職業病は腰と足の痛み」、昭和の天才も引退決断…「無理だと判断しました」“正座とケガ”に悩んだ大棋士は渡辺明だけでない
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byAsahi Shimbun
posted2024/12/27 11:38
長年にわたってトップ棋士として対局に臨み続けている渡辺明九段だが、ヒザのケガによって1カ月の休場となった
そして28分を消費した19時17分、渡辺は膝の痛みで対局をできないと申し出て投了し、千田の勝利となった。
体調不良によって対局中に不戦敗を申し出た例はあったが、負傷の事由は珍しい。
渡辺九段は千田八段との対局翌日、自身の気持ちをSNSで記している。
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〈膝の手術は近い日程で決まっていて、当面の最後の対局だったので、やり切りたかったです。痛みが出るかどうかは日によるので(先週の対局=竜王戦の広瀬章人九段戦はそれほどでもなかったので、普通に指せた)。しかし昨日の対局では強い痛みがきて、順位戦の遅い終局時刻を考えると、無理だと判断しました〉
対局写真を見ると、椅子対局なので膝への負担はあまりなさそうだが、周辺に痛みが広がっていたのだろう。渡辺九段は12月19日、2025年1月20日まで休場すると公表した。
羽生九段も「職業病」…22歳の藤井竜王・名人は?
アスリートにつきもののケガだが――棋士も肉体にかかる負荷はついて回るものだ。
私こと田丸は60歳ぐらいの頃、対局で正座をすると膝に激痛が走った。胡坐(あぐら)に組み替えれば少しやわらぐが、時間がたつと足全体が痛くなった。やむをえず正座をする場合、太ももとふくらはぎの間に大きめのクッションを挟んだ。それなら痛みがそこそこ軽減されたが、座高がかなり高く見えたようだ。
整形外科医の診断は「変形性膝関節症」。筋力低下、加齢、肥満などによって発症するという。悪化すると正座はもちろんのこと、歩行も困難になる。私は当初はヒアルロン酸注射の治療を受け、以降は散歩やストレッチ体操で膝の周辺の筋肉を鍛えた。そして現在は日常生活で、階段を下りる場合を除いて不都合はない。正座はできないが、8年前に現役を退いたのでその機会はほぼない。
羽生善治九段は以前に「棋士の職業病は腰と足の痛み」と言ったことがある。長年にわたる数々の対局で通した正座によって、身体のあちこちに不具合が生じてもおかしくない。ただ個人差はあるようだ。50代以上で正座を続けられる棋士もいれば、40代以下で正座がきつい棋士もいる。藤井聡太竜王・名人はまだ22歳と若いが、果たしてどうなのだろうか……。
新将棋会館の椅子対局室と、天才・升田の現役晩年
新設された東京と関西の将棋会館には、椅子対局室がそれぞれ設置されている。
東京の椅子対局室では上限で8局、関西では2局が対局可能である。対局前に申請して両対局者が合意すれば、椅子対局ができる。ただ和室での対局が身体的に難しい棋士(女流棋士も含む)、高齢者やキャリアが長い棋士が優先されるので、希望しても叶わないケースがありうる。