将棋PRESSBACK NUMBER
羽生善治いわく「職業病は腰と足の痛み」、昭和の天才も引退決断…「無理だと判断しました」“正座とケガ”に悩んだ大棋士は渡辺明だけでない
posted2024/12/27 11:38
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Asahi Shimbun
12月13日のA級順位戦(渡辺明九段−千田翔太八段)の対局で、渡辺九段が夕食休憩後に千田八段に不戦敗を申し出た。膝の負傷の影響で対局の続行が不可能になったという。きわめて珍しい事態だった。それに至った経緯について、渡辺が自身のSNSで配信した文言などを基にして説明する。また、新将棋会館での椅子対局、足の不具合で引退したある大物棋士などについて田丸昇九段が解説する。(※棋士の肩書はいずれも当時)
大きな原因の1つは「正座」だった
渡辺明九段(40)と千田翔太八段(30)が対戦した、A級順位戦6回戦の対局が12月13日に将棋会館の特別対局室で行われた。通常は畳に置かれた座布団に座っての対局であるが――当日は、中央のテーブル上に平たい盤が置かれ、両対局者に椅子が用意された。観戦記者、記録係らも椅子に着席した。これは、膝の具合が良くない渡辺九段が事前に申請して許可されたものだ。実は12月6日の竜王戦1組ランキング戦(渡辺九段ー広瀬章人九段)の対局も、同じく椅子対局で行われた。
渡辺九段は自身のSNSで、5月下旬に左膝の負傷を公表した。趣味のフットサルでケガしたとのことだが、対局で長年にわたって続けてきた「正座」も大きな原因だという。「前十字靭帯断裂」という症状で、放置すると半月板や軟骨への負担が大きくなり、日常生活に悪い影響が出てくる。
ADVERTISEMENT
渡辺は6月に手術を受け、以降は治療とリハビリに努めるつもりだったという。しかし5月末、7月上旬からの王位戦七番勝負で藤井聡太王位への挑戦者となることが決まり、膝の手術・治療の予定は延期となった。
その後、渡辺は公式戦の対局やほかの仕事を何とかこなしてきた。痛みはそれほどでもなかったのか、痛みにずっと耐えてきたのか……。それは本人でないとわからないが、負傷から半年後に限界に達したようだ。
終局時刻を考えると無理だと
渡辺−千田戦は、相居飛車から押したり引いたりの小競り合いが続き、18時に千田の手番で夕食休憩に入った。中盤の形勢は互角で、本格的な戦いはまだ先と思われた。千田が夕食休憩後に指すと、渡辺はメガネを外して手で目元を覆っていた。指し手を読むのではなく、何かを思い巡らしていたようだったという。