- #1
- #2
オリンピックPRESSBACK NUMBER
「頑張れって言わないで!」水泳・大橋悠依が語る“コーチとの衝突”…感情を失った金メダリストはどうやって“燃え尽き”を乗り越えたのか?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2024/12/20 11:04
21年の競技生活に終止符を打った大橋悠依(29歳)
東京五輪から約7カ月が過ぎた国際大会日本代表選手選考会。大橋は200m個人メドレーで2位、400mは3位に留まった。若手の台頭を背景にパフォーマンスはやや精彩を欠いていた。
実はこの世界選手権は当初、2021年夏に福岡で開催される予定だった。しかし、コロナ禍により東京五輪と共に延期。東京五輪が終わった後、急遽、2022年6月にブタペスト(ハンガリー)で世界選手権が開催されることが決定した。大橋ら選手たちは対応に迫られることになった。
「短い時間の中でものすごいスピードでいろいろなことが決まっていって……。そこに気持ちが追いついていかなかったですね。もちろん、代表に選ばれたからには出場するレースに向けてどうにかして気持ちを高めようとしていたんですが、集中できなかったり。いざ出場しても、エネルギーの消耗が半端なくて、ものすごい疲労を感じていました。結果、体調を崩すこともありました」
ADVERTISEMENT
結局、2022年の世界選手権では200mで13位、400mで5位という結果に終わった。
「その当時は自分も代表なのに、“みんなすごいな。頑張ってるな”と、どこか俯瞰して見ているようなところがあって、レースへのエネルギーがまったく沸き上がってきませんでした。まるで感情を失っているかのように。日々を淡々と過ごしている、ただそれだけで」
いつもなら世界選手権のような大舞台の直前になると自然と上がるモチベーションも、「ワクワクした気持ちも、楽しむ気持ちも全くありませんでした」と振り返る。
コーチの助言も無視、義務感で泳ぐ日々
「一番苦しかった」と吐露する2022年はとくに、自分の感情さえもどうなっているのか把握できず、頭も感情も混乱している時期だった。夏場は練習を途中で勝手に切り上げ、2022年から指導する石松正考コーチの声かけすらも無視し、部屋に戻ることもあったという。極度の貧血のときでさえ毎日練習していた大橋が、1〜2カ月泳がない時期もあった。
「競技を続けていたけれど、自分がすごくやりたくて続けたというよりも、人のために続けたという気持ちが心のどこかにあって。気持ちのどこかで、“やらされている感”があったんです。“やりたい”、“練習したい”ではなく、“やらなきゃ”、“練習しなきゃ”、“試合に出なきゃ”と義務感で泳いでいました」
ただ、そんな時期を支えてくれたのもまた石松コーチだった。